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beautiful nightmare

余暇

日本橋丸善のギャラリーで,今日まで開かれていた展覧会,「ビアズリーとバルビエ展」を見に行った。これは展覧会というよりむしろ展示即売会のようなもの。ビアズリーと聞いたら黙っていられないのは,悲しいかな,世紀転換期Loverの性である。
ビアズリー目当てに行ったのだが,ビアズリーの絵は誰でも見たことのあるような至極一般的なものしか展示されておらず(「アーサー王の死」とか),それよりはバルビエの絵の方がよほど見ごたえがあったし,気に入った。実はこんな偉そうなことを書いておきながら,私はこの展覧会のことを知るまで,バルビエなどという名前は聞いたことも見たこともなかったのである。ジョルジュ・バルビエ(1882-1932),フランス人イラストレーターにしてデザイナー,アール・デコの異端児であったらしい。ビアズリーの緻密とも立体的とも言えないモノクロ画は,ちょうど色のない夢を連想させるのだが,バルビエの作品には色がある分だけ幻想的にも,また逆に現実的にもなっていて,いっそう「夢うつつ」の狭間のあたりをさまよっている感じがした。
びっくりしたのは,ジャポニスム絵画の色がまさに日本画の色を再現していたこと。普通の水彩絵の具だというから驚いた。岩絵の具を使っているのではないかと思うほど,綿密な計算で再現された色だった。また,この時代と言ったらオリエンタリズムでありジャポニスムでありシノワズリなのだが,むしろそっちに走っていないコンテンポラリーな絵や,ロココ風な絵の方に余計エロチシズムが感じられた。
他にも,ロセッティをはじめとして名だたるラファエル前派の絵も同時に展示されていて,知らなかった作家に対して世界が広がった。特に好きだと思ったのは,エドガー・アラン・ポーの物語の挿絵シリーズ。「アッシャー家の崩壊」とか「モルグ街の殺人」とかのイラストなのだが,皆様容易にご想像いただける通り,とっても嫌な気分になりながらこわごわ見ることができます。私がその中でも好きなのは「早すぎた埋葬」。タイトルから連想できる通り,土深く埋葬されてしまった棺の中で目覚めてしまって,まさに断末魔を上げている病人の絵。よく挿絵を描こうと思うよなぁ,という。この時代って,趣味の悪さとか下品さとか,時には偏見や差別感情も隠すことなく堂々と表しているところが何ともいえず好きである。
ところで日本橋丸善に来たのは,実は初めてであった。ここ,梶井基次郎が洋書の上にレモン置いて,それが爆発するのを妄想しながら帰ったあの丸善でしょ!?そうでしょ!?と店内で罪もなく興奮していたが,『檸檬』を読んでから長年経った私の頭は,どうも混乱していたらしい。レモン置いたのは,京都の丸善なのですね,ということにさっき気づいた。ぐすん。
岡山時代,それはそれは丸善が好きで,街中に行くときぜひとも行きたいところは天満屋か,高島屋か,一番街か,はたまた丸善,とそこにランクインするほど好きだったのだが,ただこちらの丸善は,どうももう一歩である気がした。洋書のラインナップなどはさすがという感じだったけれども。見るともなく洋書を眺めていたが,ペンギンから『ドゥームズデイブック完全版』などが出ていることには驚いた。この際何か買って帰っても罰は当たるまいと思い,前々から読みたかったIan McEwanのAtonementを探したが見当たらず,店員さんに聞いてみたが結局私の方が先に見つけたりしてしまい,むしろ申し訳なかった。