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Le traité de "HACHI"

つれづれ

ハチ,フランス語で発音すると「アシ」になってしまう。deはd'にしなくていいんだっけ。
さて16時頃,おもむろにテレビをつけましたら何と『ハチ公物語』など放送していたのですぐに消した。なぜかと言うとあれは犬好き,とりわけ日本犬好きには見るに堪えない映画だからである。私は無類の日本犬好きで,柴と秋田なんてもうたまらないわけである。いつまでも見ていたいくらいである。こう言うと,「(他の趣味と同じく)犬も洋犬が好きかと思っていたので意外だ」とよく言われてしまいますが,犬に関しては別なのである。犬に関しては和犬オンリーです。夕方の本郷キャンパスは私にとってパラダイスです。遠く離れた故郷にいて会えない愛犬まろによく似た風貌の犬がどこにもかしこにも。生類憐みの令は悪法だなんて思っていません。動物愛護法はもっと刑罰を厳しくすべきだと思っています。例えば自転車を漕ぎながら犬を散歩させた人間は同じ目に遭わせるとか。あれを見ると思わず自転車の飼い主を蹴倒してやりたくなるのだが,今日もあれを見てしまった。そんな奴は全速力で疾走する自転車の横を四つん這いで延々走ってみるといい,といつも思う。せめて「そういう散歩のさせ方はやめてください」と言いたいのだが,しかしよそ様の家のやり方に文句を言うのはマナー違反だし,でもそう思って誰も何も言わないから世の中DVや児童虐待が横行しているじゃないか,と思わず煩悶してしまった。そんな私はもしかしてエコファシスト一歩手前だろうか。
で,話をハチに戻すと,重ね重ね言うが,あれは見るに堪えない映画である。
まず,ベイビー・ハチは貨車に乗せられて東京まで運ばれるのだが,列車の揺れがかなり激しく,ハチは長旅で衰弱する。それだけでもう私にとっては万死に値する罪なのだが,子犬を欲しいと言った張本人である石野真子は子犬を受け取りにも行かない。石野真子は家にハチが来ても見向きもせず,世話をするのは仲代達矢ただ一人で,妻である八千草薫など,夫がハチばかりをかわいがるとハチに嫉妬する始末。石野真子は外交官である恋人ギバちゃんとできちゃった結婚してロンドンへ行くのだが,そこへハチは連れて行かない。なぜかと言うと「犬を連れて行ったら夫への愛が薄れるから」などとほざく。あんた少しでもハチに愛を注いだことがあったっけ?と,もしタオルケットでも持って観賞していようものなら,この時点で既にズタズタに引き裂かれていること請け合いである。まもなく仲代先生が死ぬ。すると妻・八千草はハチの世話をするべきところが,ハチを知人に引き渡して親類の家に身を寄せてしまうのである。ここでの理屈は「親類の家は和歌山で,ハチは秋田犬だから,気候が合わない」。
さてハチは知人宅にお世話になることになるが,まもなくそこでも主人が死ぬ。ハチの流転が始まる。小料理屋のようなところに引き取られた時など,ハチは小屋すら与えてもらえず,庭の木につながれっぱなしで,そこで風雨に耐えることになる。もう滂沱の涙である。しばらくしてハチは野良犬になるのだが,通りかかっただけで「汚い!あっちへ行け!」と茶碗を投げつけられたりする。渋谷の住人よ地獄に堕ちるがよい。たまに東京に出てくる八千草は,その時だけ申し訳程度にちらっとハチに会い,「じゃあねハチ,元気でね」と言い残して帰ってゆく。あのー,どうやって元気で過ごせと言うんですか?
晩年,ハチは渋谷駅前の焼鳥屋さん・山城新伍と仲良くなり,ようやく安らぎの場を見つける(焼鳥ももらえる)。しかし市井の人間はどこまでもハチに冷たい。焼鳥屋の客は,「食べ物屋が犬なんて店に置くな,だいたいこの犬は焼鳥目当てで来ているだけ*1の薄汚い犬だ」と暴言を吐く(死んでしまえ)。山城新伍はその客に向かい,「お客さん,本当に汚いのはあなたの心じゃないんですかい」と言うのだが,これが唯一この映画で素晴らしい点である。よく言った!
雪の降る夜,ハチはいつものように,来るはずのない故・仲代先生を待っている。次第にハチの脳裏に,仲代先生と過ごした幸せな記憶が走馬灯のようによみがえる。ハチは静かに息をひきとる。完。
と,もはや犬好きにとっては,人間でごめんなさいと言いたいほどの,とにかくひどい映画なのである。泣けるのは保証するが,しかしあれは感動の涙ではなく,憤りと悲しみが8割を占める涙である。あの映画を1度見るだけで,私の中のYou死んじゃいなよリスト(そんなもんがあるのか)に軽く10人がリストアップされるほどである。ですので愛犬家はご覧にならない方がよろしいかと存じます。精神的負担が大きすぎます。ちなみに愛犬家,とりわけ和犬愛好家が見ない方がよい映画のもう1本は,なんといっても『南極物語』である。
ところで,こんなにボロクソ言っている『ハチ公物語』を我が家で見るとどうなるか。全員が涙にくれるのはもちろんですが,そのあとで諸人こぞりてまろの元に押し寄せ,まろを「ハチ」と呼び,泣きながらかき抱き,あらん限りかわいがるというのが定番である。単なるアホの一家である上に,その時限定でハチに改名させるなど,犬のアイデンティティの根幹にかかわる問題で動物虐待にあたるのではないかと思われるのだが,しかし当犬はまったく意に介しない様子であり,しかもボーナスで食べ物がもらえるとあって喜んですらいる。日本男犬の風上にもおけない軟弱な坊ちゃんである。

ハチ公物語 [DVD]

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そんな『ハチ公物語』をリメイクした,『HACHI 約束の犬』は本日公開。おいおい,アメリカが舞台で,名前は「ハチ」のまんまかよ,まったくリメイクすりゃいいってもんじゃないよ……と冷眼で見ていたが,あれ,監督がラッセ・ハルストレムなのね!今日初めて知ったのだが。『ギルバート・グレイプ』も『ショコラ』も『カサノバ』も『サイダーハウス・ルール』も大好きです!これはもしかして,超感動作だろうか。わざわざ辛い思いをするとわかっていて,お金を払って見ようとは思わないのだけど。

*1:こういう説は本当にあるらしい。そんなことを言う人間は,さっさと人間であることをやめた方がいいとすら思う。