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ラリック展

余暇

国立新美術館で開催中のルネ・ラリック展を見に行った。
日曜だからか,それともラリックが実はこんなに人気だったということか,結構な混みようでびっくりした。しかも展示されているものがアクセサリーとかそういう小さなものなので,絵のように人垣になって見ることもできず,長蛇の列がのろのろ動くという面倒な状況になっており,展覧会ではなぜかせっかちな私はがんばって列を無視して後ろから見ていた。
工芸デザイン系の学生さんが多かったようで,会場で聞こえてきた会話はかなりプロフェッショナルなものであった。例えば「私,七宝ではこういうやり方はしたことないな」とか。かと思えばラリックのデザインしたジュエリーの類を見て悉く「かわいい」の一言で形容している人もいたりして,実に様々な客層に受けているようであった。
ジュエリー作家がガラス工芸に転身するというのはなかなか勇気がいることだと思うのだが,ラリックはガラス工芸に対して特に一段見下げたりはしていなかったと見える。ラヴェルにしろドビュッシーにしろマネにしろシスレーにしろ,そしてラリックにしろ,この頃のアーティストに共通するのはすべからく開明的な感性を持っていたということで,いわゆる「王道」の「芸術」においてはタブー視されるようなことを差別なく自らの作品に取り入れる姿勢が,結果として良い効果を生んでいる。特にラリックの功績で印象深かったのが,蝋による鋳型の採用。それまでのガラス工芸では石膏で鋳型を作っており,完成品を鋳型から取り外す時に鋳型そのものを割ってしまわなければならなかったため,製品も貴重な一点ものになってしまっていたが,ラリックは鋳型を蝋で作ることによって複数の生産を可能にした。アーティストならば一点ものにこだわって希少性を付与し,それによって自らの作品の価値を上げる,しかし厳しく言ってしまえば作品そのもので勝負していないかもしれない,という点が付きまとう。しかしラリックは,あれほどの芸術的な作品を生み出しながら,あくまでも「芸術品」ではなく「工芸」にこだわっている,という点が素晴らしいと思った。日常的に使うものこそ美しくなければならず,逆に言えば美しいものは使わなければ価値がないという実用性重視の考え方が「工芸」概念の根本にあるのだが,それを支えているのは芸術家ではなくて無名の職工である。ラリックが自分をどう認識していたかは知らないが,少なくともその考え方は「職人」のそれなのではないかと思った。一点生産にこだわらず,複数生産し,またあるもの―テーブルセットやカーマスコットなど―は実際の使用に耐えながら,それでもこうして芸術品として鑑賞に耐えうるものであり続けるということが,ラリックの真価を物語っているだろう。ああなんか,感動をそのまままくし立てているので,論理破綻が気になってしかたないが,えーいままよ,もう不問にしてしまえ。
はぁ,しかしやっぱり,これは箱根ラリック美術館で見るに限ります。アール・ヌーヴォーやらアール・デコは装飾品なのだから,それを見る場そのものがその陳列に耐えうる場でなければならないのであって(だから新婚家庭をアール・ヌーヴォーアール・デコ風の家具で満たしたいという私の究極の夢は日本のマンションとかに住む限り無理である),こんな国立新美術館みたいな変てこな近代的な建物で見るもんではない。その点,ラリック美術館はトータルプロデュースがなされていて本当に素晴らしいと思う。

ちなみにこれが展示されていた。これはラリック美術館の目玉みたいな作品であり(展示されていたのはラリック美術館の蔵ではなかったが),もちろん私もこれをラリック美術館で見た。どうも私の後ろにいた女の子もラリック美術館でこれを見たようだったのだが,どこで見たのか思い出せないらしく,ずっと連れの友達にその断片的な記憶を語っていた。「あ,あたしこれ見たことある!えーっと,どこだったかなぁ……これもどっか,美術館で見たんだけど」云々。答えを知っている私は言いたくてたまらなかったのだが,よそ様の会話にいきなり割り込むわけにいかず,黙っていた。ついに彼女は答えを見つけた。
「わかった!軽井沢の,ルネ・ラリック美術館ってとこだ!」
ああああ違う。惜しい。正解は箱根ラリック美術館(ルネはいらない)です。連れの友達はのんきに「ふーん,そんなとこがあるんだー」などと言っている。ああ誤った知識がこうして伝播してゆく(←言い過ぎ)……正しい所在地と名称を言いたくて言いたくてどうしようもなかったのだが,ついに言えなかった。あの時のお嬢さん,もしどこかからこの日記にアクセスなさいましたら,ぜひ正しい所在地と名称を覚えてください。ついでにURLも貼っておきます。これですのでどうぞよろしく。
そして30日からちょうど東京にいない私は,帰りに不在者投票をしてきた。わあ,小選挙区比例代表並立制だ!と,ようやく公民で学んだ知識を目の当たりにして感動した選挙素人であった。
ところで「みんなの党」(略称は「みんな」らしい)というネーミングセンスはなんすか。もし「みんなの党」が与党になった暁には,そのネーミングだけで,日本は国際社会でかなり浮くんじゃないかと……