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ラスト,コーション

映画


気候のせいだか,それとも風邪をひいたのか,どうも鼻から上がすっきりしない(鼻がつまるような気もするし,なんだか目頭が熱いし)。風邪をひくような覚えはないのだがまぁ念のためということで,とりあえず今日は風邪薬を飲んで早めに寝よう。今日はようやく修論の題目が決まったということ以外に取り立てて書くこともないので,最近ようやく見た『ラスト,コーション』のことでも書いておく。
ブロークバック・マウンテン』もすごく良い映画だったけれど,こちらも良かった。この2作しか見ていないが,アン・リー監督の何がすごいって,画面上に一切の無駄を出さないことのような気がする。どうもこの映画には色々と意見もあるようです。ベッドシーンが無駄に長く過激だとか。でも私は,そうは思わなかった。それは例えば芥川の『地獄変』で,牛車が燃えるシーンがやたら長いと批判するようなものだと思う。何のための「ラスト」コーションですかというもので(ちなみに,ラストはlustでありlastではありません)。
良かったところは他にもありすぎるほどあるのだが,挙げるとすればやっぱり,俳優陣の「目の演技」がもうため息ものだったということである。特に主役2人+ワン・リーホンが圧巻。イー(トニー・レオン)とチアチー(タン・ウェイ)が視線を交わすときに走る緊張やエロティックさや,クァン(ワン・リーホン)がチアチーを見る,請いすがるような眼差しや,上海社交界に君臨するイ―夫人の品定めするような鋭い視線や,そのすべてにやっぱり無駄がなかった。目は口ほどにものを言う,とは本当ですねぇ。イーの愛人になり,いざ抱かれるとなった時にバージンではあまりに不自然ということで,チアチーは仲間のうちで経験のある男子学生とセックスの練習をする(!)のだが,その時にまったく無表情であったのがひどく印象的であった。まさに,ただただその「行為」の練習をしているだけ,という感じ。工作員魂,恐るべし。もっとも,この時期はまだチアチーも仲間も工作員「ごっこ」をしていただけだったのだが。これを見てしまうと何だかもう,ハリウッド映画は台詞と音楽に頼りすぎであるような気がしてしまう。通ぶってハリウッド映画をけなす気もないし,何よりハリウッド映画の大袈裟さやドラマティックな映画音楽は私も大好きなのだが(The☆ハリウッドな『風と共に去りぬ』のエンディングなど,何度見ても素晴らしいと思うもん),最小限の音楽や台詞で表現することに成功している映画は,やっぱり感嘆に値する。その意味でもこの映画は百点満点であった。学生時代の屈託のなさや,キラキラした海辺の風景や,上海のシーンでの雨やら,占領下の街の緊張感や,すべての設定が雄弁に語る。こんなに隙のない心理描写は本当に初めてである気がする。『ブロークバック・マウンテン』も,そりゃあもう素晴らしかったのだが。
そしてなんといってもやはりトニー・レオンですね。もう,トニー・レオンですね。中国人俳優の中ではもう彼が断トツに好きな私であるが,今回のトニーはもう,とんでもなくよかった。周瑜閣下も格好良かったが,それに何重にも輪をかけてよかった。イーは南京政府汪兆銘の片腕であり,反政府分子の弾圧を主な仕事にしているので,性格は残虐非道であり何人もの罪なき人々を拷問したり処刑してきたという設定なのだが,もちろん敵同士が恋に落ちてしまうこの映画で,そんな単純な設定であるわけがなく。日本料理屋で芸者の歌声が聞こえてきた時,敗色濃厚な日本のことをチアチーに聞かせるともなく語りながら,伏し目気味にさびしげに笑っている表情とか,チアチーに対してサディスティックな態度を取りつつ,ふとした時にすがるような目で見たりとか,これまたチアチーに必死で「この何年間も誰も信じてこなかったけれど,君だけは信じている」と言うところとか,もう,キャーッ。トニーッ。あっ。取り乱しました。ついでにここで挙げたのは,どう考えてもダメ男に引っ掛かりやすい女のポイントである。ひぃぃっ。
ちなみに女性ファンが贔屓の俳優を見る時,特にその俳優がラブシーンだったりベッドシーンだったりを演じている時,相手を脳内で自分に置き換えて,鼻血も出んばかりに興奮するか,それとも相手役の女優に嫉妬するあまり目も当てられないかのどちらかが多いパターンだと思うのだが,私はこうもミーハーでありつつ,意外にそれはない。冷静に見ています。もし相手が自分だったらなんて,また,相手役の女優に嫉妬だなんて,あまりにもリアリティがなさすぎる。これが現実に好きな人だったりとかしたら,話は別かもしれないが。さらにどうでもよいことだが,チアチーがイーを籠絡する際に用いている偽名は「マイ夫人」である。マイとは苗字であるが,かといって悪い気はしません。グローバルな名前に快哉を叫びたい。「マイ」さんはぜひともご覧になるとよろしいでしょう。
気がつくと後半くだらないことばかり書いていたし,「早く寝る」とか言っておきながらもうこんな時間なので,今まで見た映画の中でも上位5位には入るのではないかと思うくらい素晴らしい映画でした,という賛辞を述べて終わりにする。おすすめです。本当に。

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