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drinkは単なる「飲む」ではないんだよ

バイト

 An effect can becomea cause, reinforcing the original cause and producing the same effect in an intensified form, and so on indefinitely. A man may take to drink because he feels himself to be a failure, and then fail all the more completely because he drinks. It is rather the same thing that is happening to the English language.

今日やった和訳の問題。出典はジョージ・オーウェルの,Politics and the English Languageだそうです。
生徒ちゃんはこのdrinkを普通に「飲み物を飲む」と訳していた。なんと汚れを知らない良い子でしょう……!と,私の頭の中ではピエ・イエズスが鳴り響くほどの感動を覚えた。しかし生徒の志望校レベルを考えるに,drinkを「飲み物を飲む」なんて訳しているようじゃいかんと思い,「これ,飲むは飲むでも,ただ『飲む』んじゃないんだよ。『自分が失敗者だと感じるから』飲むものって何?そしてそれを飲んだら今度は『完全に失敗する』ものって何?」とヒントを出してみると,困った顔をして「くすり……?」と答えられた(「薬」なのか「クスリ」なのかは,怖くて聞けなかった)。汚れを知らない子だと思ったのに,いきなりそこまでレベルを上げるなんて,先生はマンモス悲ピーと言いたいのを堪え,ほら,最近中川昭一さんが……と最終ヒントを出して,初めてわかってもらえた。しかし中川先生も,こんな心境だったのだろうなぁ。お察しします。
ちなみに今回の問題は前掲の旺文社の問題集に載っている類題だが,駿台の問題集にはジョイス『ダブリン市民』から「痛ましい事故(A Painful Case)」の冒頭がそのまま和訳の問題として出ているのを見たことがある。

ダブリンの市民 (岩波文庫)

ダブリンの市民 (岩波文庫)

Mr. James Duffy lived in Chapelizod because he wished to live as far as possible from the city of which he was a citizen and because he found all the other suburbs of Dublin mean, modern, and pretentious.

という有名な冒頭。有名と言っても,「死者たち」には劣る*1だろうが。いくらジョイスの文章は難解だと言え,ダフィ氏の説明をするのみであるこの冒頭くらいなら全く平易なもんだが,動転したのは,チャペリゾッドに関して注がなかったところ(確か,なかったように思うのだが)。平然と「ジェイムズ・ダフィ氏はチャペリゾッドに住んでいた」と訳せる子は何人いるだろうかと思ってしまった覚えがある。
しかしそれにしても,案外和訳の問題も,由緒正しいものが多いですね。同じジョイスにしても,『フィネガンズ・ウェイク』とかが出題されてなくてよかったねぇ。されないか。さすがに。でもドイツ語教材には素知らぬ顔で『ヴェニスに死す』が使われていたし(天下の悪文だと独文科の友人に聞いたが),フランス語教材には決まって『失われた時を求めて』とか出てきますよね。読みやすいからとか,訳しやすいからとか,そういった理由でのチョイスでもなさそうですね。

*1:ちなみに,こちらの冒頭は 'LILY, the caretaker's daughter, was literally run off her feet.' 私ならこちらを出題して,「文字通り駆けずり回る」と訳せるかどうかを見たい。