読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

西太后メソッド

バイト

家庭教師の生徒は和訳を苦手としているというのは前に書いたとおりなのだが,私の目の前でぱっと和訳をさせてみたりした時,基本的な単語が抜けていることが多くみられるのが気になってはいた。
学校では英語に特化したコースに在籍しているし,そこではトップクラスの成績をおさめているようなので,もう今さら単語の覚え方に関して私がとやかく言う必要もあるまい,きっとこのように単語が抜けているのも,受験直前期の常というやつで,基本的なところが突発的にあやふやになっているだけなのだろうと思い,とりあえず授業では入試用の演習を行いながら,授業の終わりには口を酸っぱくして,今こそ単語や構文を最初からきちんと見直しておきなさいよ,こんなので点を落とすのはもったいないよ,と注意することだけは忘れないようにしていた。しかし前回の授業で彼女がforbidの訳で詰まったのを見て,ついに私の堪忍袋の緒も切れた。自分で言うのもなんだが,私の堪忍袋がいかに頑丈な作りであるかは,私と親交の深い方であればおわかりの通りだと思う。それを見事にぶった切った彼女にむしろ感服である。もう,あなたが単語をきちんと頭に入れ直すまで,授業では単語と構文のテストしかやらないから,それが完璧になるまで入試の演習には戻らないから,と言い捨てて出てきたのが前回の終わりで,今日はひたすらテストをしていた。いい加減心を鬼にしないと,受かるものも受からなくなってしまう。テストの方法も,とりあえずはセンターレベルの単語と構文を用いた例文をひたすら口頭で訳させ,わからないものについては「わかりません」と申告させて宿題にするという屈辱的なものにした。私だって好きでこんなことをしているわけではありませんから,彼女の声がどんどん消え入りそうになるのはまったく可哀想でならなかったが,しかしこうでもしないと,いかに多くの文章を訳すチャンスを失っているか,自覚してもらえない。生半可な優しさが仇になることは世の中多いのですよ。女には,天女ではなく鬼女にならなければいけない時があるのである。と,もはや気分は『蒼穹の昴』の西太后であった。でも本当に,ある人の価値というのは,いざという時に悪者もしくは嫌われ者になれる覚悟があるかどうかで決まると思います。そうまでしてでも,やり遂げたいことがあるかないかによるのだが。要するにそれが,肝が据わっているかいないかということなんじゃないかしら。君が笑ってくれるなら僕は悪にでもなる。
さて,ひたすらテストですと私の出る幕なんてほとんどないので,試しに修論提出カウントダウンをしてみたのだが,なんとあと43日じゃないの。真っ青になった。