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東京タワー

読書

東京タワー (新潮文庫)

東京タワー (新潮文庫)

なんかもう泣きそうに疲れている上,論文の推敲が終わらなくて今にも泣きそうなので,昨日日吉への行き帰り時間を利用して一気に読んだ江國香織『東京タワー』のことでも書いておこう。『落下する夕方』が全然面白くなかったので,もはや江國もこれまでかと大いにがっかりしていたのだが,この『東京タワー』がずいぶん引き込まれる作品だったので,江國ファンとしてのモチベーションは割と持ちなおした。よかったよかった。
私は先の見えない,というよりほとんど「ない」恋愛(不倫とかキープとか)をする人たちに対して,はっきり言うが,バッカじゃないの,という身も蓋もない感想を抱く人間である。先の見えない恋愛に限らず,その場しのぎのことをやる(飲んでつぶれたりとか,ギリギリの単位でなんとかしようと焦ったりとか)人たちに対して常にそう思う嫌な奴なのだが。恋愛は理性じゃない,そりゃ確かにそうだろうが,君のその行動には理性がなさすぎないかい,と。そもそも「恋愛は理性じゃない」という定説に関しても割と懐疑的なのだけども。
で,そういった凝り固まった価値観を持つ私からしてみれば,この物語の2人の主人公であって既婚者と恋をしている透くんと耕二くんは明らかにその「バッカじゃないの」の対象ど真ん中に当てはまってしまう人たちである。特に耕二くんなんてもう,実生活でこんなバカがいたらまともに相手にしないであろうレベルのバカである。まず,成績がよくて家が金持ちだからか何なのか知らないが,とにかく同級生と自分とは違うと思っているらしい。そしてその耕二くんが唯一認める相手の透くんがお母さんの友達の女性と付き合っているからといって,羨ましくなって自分も同級生の母親「厚子さん」に手を出して修羅場を経験する(今の相手は「喜美子さん」)。その点,透くんはまだ許せるというか,少なくとも母親の友達,詩史さんとの恋に関しては,それが「かっこいいから」とかいう軽薄な理由ではなくて,ただ好きだから付き合っている。
しかしこうした認識は,徐々に覆り始める。もしかして,耕二くんの方がバカに見えて現実的にものを見ているんじゃないか,と。耕二くんは―現実がどうあれ―「捨てるならこっちと決めて」喜美子さんと付き合っているわけだし,女子大生の恋人(由利ちゃん)もいて,それなりにバランスが保たれている。人となりに関しても,「親に余計な金使わせちゃ駄目だろ」という常識的な理由で進学先に国立大学を選ぶという描写もあって,考え方に軽薄なところはあっても基本的には「普通」の大学生なのだということがわかる。なのに透くんときたら,何の理由も特になく進学先に私立大の仏文科なんて選ぶところはまぁいいとして(女子か),詩史さんにのめりこみすぎなのである。詩史さんが好きだといった音楽から本から片っ端から手を付け,詩史さんと同じものを見たいと願い,詩史さんと逢えない時には詩史さんのことばかり考えて過ごしている。詩史さんと会う以上に優先すべきことなどあろうはずもないらしい。飄々としているように見えて飄々としていない。そんな透くんを心配して耕二くんが思うことは,正鵠を射ている。つまり,「ああいう大人びた奴に限って,いつまでも子供なのだ」と。その結果,透くんは大学卒業後,詩史さんの経営するセレクトショップで働くとかいう無謀なことをいきなり言いだす(透くんの母親はもう2人の関係に気づいている)。
「バッカじゃないの」に話を戻すと,どういうところに私は一番あきれ返るかというと,そういうその場しのぎの恋愛やら行動をする人たちは,最初どえらく甘い考えを持って手を染めるということである。どうせ本気じゃないからすぐ終わるとか,すぐ他に新しくできるからそれまでの「つなぎ」だとか。そうしてずるずる関係を深め,さあいよいよ相手に捨てられるという段になって初めて,あれ,私,この人のこと本当に好きだった,と気づく。で,もうそれからが修羅場になってしまう。失いたくないよう,と。しかし当事者でない私から好き勝手言わせてもらえば,そんなの最初からわかってたじゃないですか,ということである。遊びだろうが何だろうが,一度関係を深めてしまった人を,そんなに簡単に思いきれるわけがないじゃないですか。そういう,最初から火を見るより明らかなことを,甘い見通しのもとでわざわざやってしまうということに対して,私は「バッカじゃないの」と思うのである。この物語でも,耕二くんの喜美子さんとの別れは,案の定そんな感じであった。「捨てるならこっち」と決めていたにも関わらずにずるずる捨てられず,最後には向こうから「捨てられる」形になってしまい,気づいたら自分にとって相手がものすごく必要な存在だったと思い知らされる,と。しかしそれはそれで,「ままある話」と還元できるのだが,透くんの方はもう……これ以上関係を深めるのは困難だということを知ってなお「なにもかも大丈夫だ」とか思っていたりする。なんかもう,妄想の世界から戻って来られなくなってしまった感じ。
だからこの小説を読んで何に共感したとかではないと思うのだけれども(強いて言うなら恋をしている時の感情描写か),とにかく引き込まれてしまった。江國の書く恋愛はいつもとてもアンバランスだが,しかしはっきり言って,ほとんどの恋はとてもアンバランスなものだと常々私は思っているので,それはむしろ私の目にはリアルに映る。
東京タワー 通常版 [DVD]

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本当のことを言うとこちらを見たかったのです。しかし主演が岡田くんと松潤。脚本,中園ミホ。こりゃーもう,修論提出1ヵ月前のこの重要な時期に見たりしたら,下手すりゃ留年間違いなしだぞ,と思って原作小説の方にしたのでした。その結果,ますます映画が見たくなりました(デフレスパイラル)。透くんと耕二くんが一緒に合コン行ったりする場面があるんですけど……(どうやったらその合コンに招かれることができるのだろうか)?しかもその合コン,「盛り上がらなかった」とか「女の子は誰ひとりとして携帯の番号を教えてくれようとしなかった」とかいう描写があるんですけど……
さて,もう寝ます。睡眠の質が悪いと,この頃とんでもない悪夢ばかり見るのです。昨日は一晩のうち2回も,修論を提出し損ねるという悪夢を見ました。12/9,修論は17時しめきりなのに(少なくとも夢の中の設定はそうだった)気づいたら17時半過ぎで,ああどうしよう,とりあえず教務課に電話してみようと震える手で携帯を開いている……と思ったら目が覚めて,当日の朝で,ああよかった,今日の17時に出せばいいんだったと気づいたのも束の間,またしても時間がワープしていて気づいたら今度は18時過ぎ,ギャーッ,となったところで,本当に今度こそ目が覚めた。とんでもない夢だった。