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たいせつなめんせつ

勉強

アイルランド史,私が研究している時代だと「議会主義的*1ナショナリズム(Constitutional nationalism)」と「革命的ナショナリズム(Revolutionary nationalism)」という2種類のナショナリズムがあったのですが,思うに博士進学にも「親を納得させた上での(Satisfactory?)博士進学」と「革命的(Revolutionary?)博士進学」がありまして,今日の面接は前者を達成するための(もっとも親はもはや諦めてくれているが),大切なものでした。
そんな大切な面接なのでさぞや緊張することであろうと思っていたが,朝起きてみると意外に平然としていた。何より久しぶりに7時半などに起きられたのが嬉しくてたまらず,鼻歌とか歌いながら掃除までしてしまった。空は晴れ渡っているし。A0なんかのポスターを持ち運ぶ上で,雨など降ってはたまらないので,それだけでももう世界が味方してくれたような気分になった。朝早く起きはしたものの,私の集合時間は13時半なので結構な余裕があって,ひたすら家を出るまで練習と内容のチェック。全部完璧に言えるとは思わないが,とりあえず口が勝手に動いてでもくれれば,それに勝る好都合なことはないので。Yahoo!占いでは昨日書いた通りの結果だったものの,めざましテレビの占いでは「予想外のトラブル勃発」と出ていて少し気になる。
さて,予定通りに家を出たのはよいのだが,その「予想外のトラブル」とやらは早速訪れた。面接会場が丸ノ内線沿線,ということだけなんとなく頭にあった私は,きちんと乗換案内で経路を確認したにも関わらず,ふつーに池袋で乗り換えて丸ノ内線に乗ってしまった。ん?丸ノ内線丸ノ内線でも,もしかして乗り換える場所は新宿とかじゃなかったっけ?と気づいたのは,既に丸ノ内線の車内であった。しかも私が確認した乗り換え経路とは,小竹向原から副都心線急行に乗り換えるプランのもので,各駅停車なんかでのんきにやってきてしまったこと自体がもはや間違いであった。池袋から本郷程度ならわからないのだが,丸ノ内線ってものすごくぐるっと回っているのですよね。このまま乗りっぱなしていたら,着くことは着くけれども予定時刻に着くかどうかわからないということに気づいた私は,慌てて路線図を確認し,後楽園で南北線に乗り換え。ポスターケースは普通たすきがけに背負っているのだが,この乗り換えの時ばかりはもう,担いで走った。4年前に五月祭の看板作りで使う角材を担いで丸ノ内線(!)に乗ったことを思い出した。途中のエスカレーターで「……ドームってきつくない?」という声が聞こえ,すれ違っただけなのにもかかわらずその内容をすぐに察し,嵐だなこの野郎,うらやましい奴めっ,と呪詛の言葉を心に浮かべたりしながらポスターを担いでかけ下り,無事に南北線乗り換えを果たす。ああ。しかしこのおかげで,それまで内容のことでいっぱいいっぱいだった私は一瞬リセットされ,えーいままよ,と思うこともできたのでした。最近めっきり本番に弱くなった私ですが,それでも幼児期から場数を踏んできたおかげで,こうした土壇場のトラブルにさっさと対処できるような思考回路だけは,しっかり形成されたようです。かくしてなんとか無事に駅に着き,会場へ。道中アイリッシュパブを確認し,ああもう,私の発表の時に外でリールでも演奏して,むりやり審査員を楽しい気分にさせてくれないかしら,とか都合のよいことを考える。ちなみにリールとはこういうやつです。たーのしーい。

まぁ,リールの演奏がなくても,スピーチしながらアイリッシュダンスのステップを踏み続けるという手もあったのだが(ダンスのステップも,使用が禁じられている「ポスターの他の資料」に入るのだろうか?)。
会場に入った時にはもう受付時間*2ちょうどくらいで,受付を済ませて控室に入ったが,若干時間が早まっていたようで,割とすぐに呼ばれたような気がする。控室から袖みたいなところに移って待つのだが,他の候補者の方がポスターケースからポスターを取り出すのに苦労している*3のを見て「ポスターの巻いている外側を持つんじゃなくて内側をひっぱればスムーズに出てきますよっ!」とコツを伝授しながら手伝ったり,私の次の候補者の方に「メモとか,持って入ったらダメなんですかね?」と尋ねられて「別に規定はないですしねぇ,持っててダメってことはないと思いますけどねー」などと答えていたりするうちにさっさと時間が過ぎてしまって,あっという間に自分の番に。なんでか私は,ピアノのコンクールの時も受験の時もいつもなのだが,何やら人助けをしたり(なぜか私の前には困っている人が現れる),人に話しかけられたりしているうちに時間が過ぎるようなので,あまり袖での時間は考慮に入れていない。今回も,見事にいつもの通りであった。
案内されて会場に入り,荷物を置いて指示棒を受け取ると,これがやたら立派で長くて重い指示棒であった。私が練習用に買った指示棒というのは100均のペンみたいな軽くて短い指示棒だったので,この指示棒には仰天した。審査員の先生方は候補者の5メートル前方に座るとあったが(『フラッシュダンス』のオーディションのシーンをイメージしていた),実際には2メートルくらいしか離れていなかったし,説明する私もポスターの真横だったので,この指示棒はすこぶる使いづらかった。『情報は1冊のノートにまとめなさい』で,「メモを整理するのにワードを使うのは,たばこを買いに行くのに自家用ジェットを持ち出すほどのオーバースペック(だからテキストエディタを使いなさい)」という記述があったのだが,思わずそれを思い出した。
プレゼン自体はびっくりするほどよどみなくスラスラ出てきて,しかも時間内に見事に終わったのだが,おそらく色々ぶっ飛ばした内容があるのだと思う。いまいち何を言ったか思い出せない。卒論でやったことまでは一応ちゃんと言えたよね,イラストの説明もやって,修論でわかったことも言ったはず(だって質問もされなかったし),そこから博士の研究へのつながりをおそらくぶっ飛ばしたのだと思うが,しかしアプローチの上での特色は言ったはずだし,まとめの二言(これは私のプレゼンの中で最も不要な内容ではあるのだが)はばっちり言ったはず,というわけで一応しゃべるべきことはしゃべったはずなのだが,しかしあんなに速く終わるのはおかしい。家で練習していても,3分50秒は絶対に越せなかったのである。他に何か絶対飛ばしたのだと思うが,思い出せないし,思い出すのが非常に怖いので,とりあえずここで思考を停止しておきます。一応,主査のような先生には「大変わかりやすい説明をどうもありがとうございました」と言っていただけたし。
と,ここまでは一応なんとかなったのだが,質疑応答は非常に自信がない。質問されたのは以下の3点。

  1. 今なぜアイルランドアイルランド史はイギリス帝国史の文脈でも多く研究されているし,修正主義論争もひと通り終わって,今は多少限界を迎えている面もあると思うが,そんな時になぜ,しかも日本でアイルランド史をやるのか?それがやっぱり,説明を聞いてもよくわからなかったのだが?
    • どうもこれが,私が面接に呼ばれた理由であったらしい。正直言って,「修正主義論争」などといった超専門的タームが出てくるとは全く思っていなかったのでびっくり仰天した。しかもこういった根本的な質問は絶対に「ナショナリズム」に来ると思っていたので,「なぜナショナリズムなのか」の答えは用意していたのだが,「なぜアイルランドなのか」はほとんど予想外だった。とりあえず私の考える限りの「アイルランド史を研究する意味」を説明したのだが,「うーん,でもやっぱり研究はされていると思う」とのことであった。こうして,面接に呼ばれた根本的な原因は解決せずに終わる。
  2. アイデンティティ多様性というのは?
    • アングロアイリッシュを例に出して説明したのだが,「ごめんなさい,よくわかりません,まぁそれに関してはこれから研究していけばいいと思うんだけど」とのこと。
  3. アイルランド語の史料というのは具体的に?多くある?
    • 絶対来ると思った,アイルランド語関係の質問。これはきちんと答えました。
  4. アイデンティティ多様性」と言うのなら,「固有の文化」を使わない方がいいのでは?
    • まさかの「あ,確かにそうかもしれません」発言。私は何を言っているんだろうか。先生方は爆笑していた。今思えば,「いえいえ私がここでわざわざ『固有の文化』と言っているのは……」と説明することもできたと思うのだが,なぜだかその時は妙に納得してしまった。

こんな感じで,はきはきにこにこ答えた以外に全く内容に対して自信が持てないのだが,一応言うべきことは言ったと思うし,もうこれ以上のことは考えないようにしようと思う。今さら何を悔やんでも仕方ないので。
会場を出ると,ドアのところで私を待って「おつかれさまでした!」と声をかけてくださった方がいた。何?「出待ち」?へっ?あたし?と思いっきりうろたえていたが,「さっきはポスター出すの手伝ってくださって,ありがとうございました」と言われてやっと気づいた。それからその方と帰りをご一緒したのだが,茗荷谷でその方が電車を降りるまでの間,面接の話はもちろんとして,気づいたらその方の彼氏の話までしていた。ちなみに,その方はディアスポラナショナリズムを人類学の立場からなさっているとのことで,そういえば袖で控えている時にメモのことで話しかけてこられた方はルーマニアのジプシーをテーマに人類学をやっているとのことだったし,人類学多いんだなぁ,と素直に思った。しかし人類学のフィールドがこんなに多岐にわたるとはびっくり。歴史でアイルランドナショナリズムなんて,ものすごく王道に思えてきた。ついでにその方は「国際的なことをやっている研究が受かりやすいって聞いて」とおっしゃっていた。へー,そんなこと私は聞いたことなかったけど,やっぱり色んな情報が乱れ飛ぶものなんですね。
こんな風に,何やら普段ではできないようなことを色々と経験し,予想外に盛りだくさんの一日になりました。悔やまれるとしたら面接に呼ばれた原因である「なぜアイルランドか」という問いに気づくことができなくて,その満足な答えを用意できなかったことだが,それ以外のことは一応,きちんと言えたと思う。以前に「『精一杯やってダメなら仕方ない』という考えに納得できない」と書いたことが確かあったが,今なら納得できる気がします。結果は来てみないとわからないが,もしダメでも,その結果は来年に生かせると思う。そもそも,私の研究に興味を持っていただき,時間を取ってプレゼンを聞いてみようと思っていただけただけでも,私は非常にうれしく思っているのです。
さーて,ようやくこれで修論に戻れる。今この,提出まで5日と迫った時期に,修論に取り組めるのがうれしいなんて,そんなことを思えているのは私だけでしょう。ふふん。さっきから注釈を整えているのだが,これがもう楽しくて楽しくて仕方ない。

*1:合法的」と訳されることも多いのだが,革命的ナショナリズムが全部「違法」であったわけでもないので,英語との照合は多少ずれるにせよ,一応私はこの訳語を採用しています。

*2:受付は面接開始の30分前

*3:ポスターケースにマット紙のポスターを巻いた状態で入れると,ポスターが幅いっぱいに広がって取り出せなくなるのです!ご注意を!