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四畳半神話大系

読書

書評紙原稿の下書き代わりに。これを改編したものを載せます。なにぶんこれは走り書きでまとまっていないので,全面的に改編する可能性もあり。

四畳半神話大系 (角川文庫)

四畳半神話大系 (角川文庫)

昨日今日で読み終えた。昔から面白い小説は寝食を忘れて,学業ピアノも拒否して一気読みする私だが,今回は2日かかったからと言って,別に面白くなかったわけではない。それどころか大変面白かった。2日かかった理由は,パラレルワールドが舞台ということで,それぞれの物語に重複する(というよりコピーペーストされた)部分が多く,それが若干読みづらかったからだと思われる。
パラレルワールドと言えば昨今では『1Q84』だが,こちらにはまったくそんなドラマティックさはない。パラレルワールドの軸となるのは,大学のサークルである。つまりこの本に収められている物語はすべて,主人公がサークル勧誘の際に手にした4枚のビラをもとに形成されている。そのそれぞれのサークルに所属したらどうなっていたか,というのを,まるで数学の問題を解く時の場合分けのように並列する。映画サークル「みそぎ」の場合,「樋口師匠」に弟子入りした場合,ソフトボールサークル「ほんわか」の場合,それから秘密組織<福猫飯店>の場合。『1Q84』がどこか不気味な異次元の物語だとしたら,こちらは大学生のちっちゃい宇宙の物語であり,要するにまぁ,はっきり言ってしょうもない。しかしそれがどうも癖になる。森見は初体験だったが。
面白いのは,サークルを軸としていながら,ほとんどの物語においてサークルは本筋とあまり関係ないということである。いや,関係あるのはあるのだが,このサークルに入らずあのサークルに入っていれば主人公の周りには全然別の人間関係が開けていて……というわけではない。どの世界においても,主人公の周りには「唾棄すべき友人」小津がおり,「孤高の乙女」明石さんがおり,「師匠」樋口さんがおり,城ヶ崎先輩がおり相島先輩がおり,羽貫さんがおり,ラブドール「香織さん」がおり,つまり環境を変えたからとて何も変わっていないのである。主人公たちがやっていることも,内容に差こそあれ,バカなことばかりやっているのに変わりはない。最終話「八十日間四畳半一周」だけ,ちょっとしたSFのようになっているが,その他はいたって,あまり学業に熱心ではなく友人とバカなことばかりやっている大学生の日常である。全編通して,実にくだらない。実に不毛である。そして実に面白い。
「『こうであったかもしれない』過去が,その暗い鏡に浮かび上がらせるのは,『そうではなかったかもしれない』現在の姿だ」とは『1Q84』のキャッチコピーのような言葉である。「パラレルワールド」などと言ってしまうと途端にSFの香りが漂うが,でもパラレルワールドなんて,もしかしたらそこらにありふれているのかもしれない。「もしあの時,今のサークルでなくてあっちを選んでいたら」というのは,大学生が必ず一度はする妄想だろう。そして同じような「if」の妄想は,人生に付きものなのだろう。もし今の仕事を選んでなかったら,もし今の相手と結婚してなかったら,エトセトラ。「選ばなかった,あったかもしれない未来」はいつも理想郷のように思える。普通はそのように妄想して楽しむ。しかし例えば実際に「選ばなかった未来」を生きていたとしたら,多くはこの物語のように,(環境が違っても人間関係まで一緒とはなかなか思えないが)少々のところがもし違っていても,そう劇的に人生が変わったりなどといったことはないのかもしれない。人間そんなもんなのかもしれない。
ちなみに,アニメ版が木曜深夜0:45からフジテレビで放映中*1。実は先週これを偶然見て,興味を持ったのです。

*1:もっともこれは東京地域の放送時間なので,各地方の方は適宜HPをご参照ください。