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マグダレンの祈り

映画

最近公開されている映画にまったくといっていいほど食指が動かなくて,その結果この半期でレディースデーの恩恵にあずかったのはまさに『17歳の肖像』のただ1度である。ちょっとこれは前代未聞ですよ。

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で,今日はついに『マグダレンの祈り』を観た。この映画は公開当時かなりの衝撃をもって迎えられたそうだが,池田理代子オルフェウスの窓』のワンシーンにまったく同じような修道院が出てくるので,私にとってはちょっとした既視感がある*1。こうした「婦女更生」を目的とした修道院はアイルランドに限らずカトリック国全域にあったのだろうし,虐待などなどの人権侵害があったのもまたアイルランドに限ったことではないだろうが,しかしそれが1996年まで存続したというのはやっぱり異常事態なのだろう。そして虐待自体も,やはり結構な重苦しさを持って印象に残るにふさわしい酷さである。鞭打ちや髪の毛をバリカンで剃ることに始まり,性的虐待まで。
この映画の3人の登場人物(マーガレット,バーナデット,ローズ)は修道院を出た後それぞれの道を歩む。マーガレットは教職に就いて生涯独身で過ごし,バーナデットは美容師になるが,カトリックに対して強烈な嫌悪感を抱くようになる。その中でローズは死ぬまで敬虔なカトリック信徒だったということである。こういう映画が出ると,やはり「宗教に対して嫌悪感を持った」とか「カトリックなんて大嫌い」とか,そういう感想を持つ人は多いようなのだが,一方でそれでもやはりカトリックを捨てられない人がいた(実際にはそちらの方が多かっただろう)ということはちゃんと目に留めておかなければならないだろうと思う。ローズは未婚の母であり,生まれた子供とは当然のように引き離される。修道院ではクリスピーナの姉と子供に対してもうクリスピーナがいないことを伝えたということで,院長から革のベルトのようなもので散々殴りつけられる。それでも生涯敬虔なカトリック信徒であり続けたのである。正面切って反抗するバーナデットやマーガレットと比べ,ローズはあまり目立たない存在ではあるが,そうした点でかなり印象に残った。あとは主要な登場人物ではないが,一度修道院を脱走しながらも父親によって連れ戻され,院長には頭を丸刈りにされるなど様々な暴力を受けながらも,修道女になるという決意をするウーナも存在感がある。ウーナがなぜ修道女になる決意をしたのかは詳細に描かれていない。もしかしたら「支配する立場に立つ」ことを望み,そう決心したのかもしれない。しかしウーナの思惑が何であれ,その行動はカトリックに支配されている。映画ではどうしてもマーガレットやバーナデットや,最終的に精神に異常をきたすクリスピーナが印象に残るだろうが,一方でローズやウーナ,また生涯の大半を修道院で過ごし,修道院生の中で威張り散らしながらも,最後には修道院で孤独に死ぬケイティのような登場人物を注意深く配置するところに,監督の目配りが感じられると思った。これは決して,ただただカトリックを悪しざまに描いていたり,闇の部分を告発するという意図のみから作られた映画ではないと思う。『アンジェラの灰』や『プルートで朝食を』はカトリックとの関わりやその支配をコミカルに皮肉っていたが,こちらはコメディ色を消したというだけのことだろう。

ところで,この映画の冒頭で歌われる『The Well Below The Valley(谷間の井戸)』というアイリッシュ・トラッドがある。情景は結婚式であり,その後マーガレットは従兄ケヴィンに隣室に連れ込まれてレイプされる。結婚式の最中に従兄によってレイプされるなんてはなはだショッキングだが,実はこの歌自体,近親相姦を歌った歌であるらしい*2。近親相姦の歌が結婚式で歌われるなんて。どうも「真実の愛を知れ」という戒めの意味であるらしい*3忌み言葉重ね言葉が注意深く忌避され,場にそぐわない曲を歌うのなどもっての他である日本の結婚式は,なんと安心できるものであることか。留学したらアイルランド人を捕まえて来いと友人からよく言われるが,じゃあ結婚式には呼ぶから絶対来てよね。そしてこの曲を聞くがいいさ。

*1:イザークを追ってウィーンに来たロベルタが収容されていて,そこでも労働は洗濯だったし,ロベルタは妊婦だったにも関わらず鞭で打たれていた。

*2:当該部分の歌詞は次の通り。なかなか壮絶です。:He said "Young maid, you swear in wrong/For six children you had born"/"If you be a man of noble fame/You'll tell to me the father of them"/"There's two of them by your uncle Dan"/"Another two by your brother John"/"Another two by your father dear"/"If you be a man of noble esteem/You'll tell to me what did happen to them"/"There's two buried 'neath the stable door"/"Another two near the kitchen door"/"Another two buried beneath the wall"

*3:上述の歌詞ならびに結婚式での意図について,こちらを参照しました。大変勉強になりました。ありがとうございました。