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アーモンド入りチョコレートのワルツ

読書

アーモンド入りチョコレートのワルツ (角川文庫)

アーモンド入りチョコレートのワルツ (角川文庫)

『マンチュリアン・リポート』を買ったついでに「ジャケ買い」したもの。
森絵都といえば,私たちの世代ではやはり『カラフル』の作者である。私も多分に漏れず,中3の時に読んだ。『カラフル』はティーンズ向けというか,どことなくあさのあつことかそういった,面白いんだけどこの作家は10代で卒業かな,という感じの印象であった。しかし『カラフル』によって森絵都に興味を持ったのは確かなので,たまたま中学校の図書館で見つけた『ショート・トリップ』を読んでみた。すると,これがまた面白い。とんでもなく面白い。とはいえこちらも中学生くらいの年代向けに書かれたものだそうなのだが,これは子供の読み物にしておくのはもったいないぞ,と子供の私は思った覚えがある。ユーモアに満ちていて,中にはブラックユーモアのようなものもあり,読んでいて飽きない。星新一ショートショートを想起するような短編集であった。森絵都という作家の芸幅の広さに感心した。それからしばらく間があき,なんとこれがひさしぶりの3作目ということになってしまったが,今回もまた,森絵都の芸幅の広さには感心しきりである。前述の2作より少し前の短編集らしいが,温かくノスタルジックな作品ばかりである。
3つの短編はそれぞれクラシックの,それもピアノ曲をテーマに作られている。「子供は眠る」はシューマン子供の領分」から同名の小品,「彼女のアリア」はゴルドベルグ変奏曲のアリア,そして表題作「アーモンド入りチョコレートのワルツ」は私も愛してやまないサティの小品。どれも素敵なのだが,そしてサティファンとしては「アーモンド入りチョコレートのワルツ」に軍配をあげたいのは山々なのだが,「彼女のアリア」は抜群に素敵な作品だった。放課後の音楽室でピアノを弾いている,虚言癖のある女の子とその同級生の男の子の物語。割と王道な胸キュンストーリーなのだが,森絵都的なユーモアも随所に発揮されている(たとえば女の子の虚言の中に)。ああ,私も放課後は音楽室でピアノを弾いておくのだった。中学時代は陸上部の練習やら生徒会やらあったし,高校時代はまっすぐ帰宅していた。何をやっていたのだ。
3作に共通するのは,何かひとつの物語が終わる寂しさである。それも,はっきり終わるのではなく,なんとなく終わる。今と同じ瞬間はもう二度と現れない,似たようなことはできても全く同じではない,とみんなが意識していて,でも口には出さない。「子供は眠る」の5人の男の子たち,「彼女のアリア」の「僕」と藤谷,「アーモンド入りチョコレートのワルツ」の「私」と君絵と絹子先生と「サティのおじさん」,作中人物たちは時が止まったような楽しいひとときを過ごすが,そこにじわじわと近づいてくる終わり(別れ)の時は容赦ない。しかしとても優しい。きっとこの想い出は,ずっと大切にされるのだろうと思えるような。それはまるで,卒業である。すべてのものに終わりが訪れるのであれば,そういう終わり方というのは,とても素晴らしい終わり方なのでしょうね。
カラフル

カラフル

ショート・トリップ

ショート・トリップ