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抱擁、あるいはライスには塩を

読書

抱擁、あるいはライスには塩を

抱擁、あるいはライスには塩を

研究室の先輩にお借りした。
家族の三代記なのだが,「家族といっても一人ずつ」と江國が語っている通り,「家族の」物語というよりはひとりひとりの物語であり,その物語の中で分かちがたく家族が出てくるという感じだった。たぶんガルシア=マルケスの『百年の孤独』が踏み台になっているんだと思う。同じ物語を共有しているように見えながら,でもひとりひとりにとってその重みは全く違って感じられ,同じ時間を共有しているように見えてもその流れる速さはこれまた違う。胸に秘めて誰も知り得なかった秘密もある。別に信用していないわけではないのだが,私は昔から「何でも話せる」友達やら家族とかいう言説に胡散臭さを感じていたので,こういう,別々の方向を向きつつゆるやかな絆で結ばれている,という物語を読むととても安心する。
本書の中で印象に残った一節,まずはこれ。

なんでも好きなことをすればいい,ただし僕の手のひらの上で。

第二世代,結婚はできないという菊乃に対して,婚約者の豊彦が言う言葉(180頁)。本当は精一杯の強がりを込めた言葉で,悲壮感すら漂っているんですけど,でもかっこいい。それに対する菊乃の返事「Vous êtes formidable.(なんて素敵なんでしょう)」。なんでフランス語。やっぱり江國には叶わない。さすが「恋はするものじゃない,落ちるものだ」などという言葉をさらっと作中人物に言わせるだけのことはある(『東京タワー』を参照)。
それから

筋を通すことが,そんなに大切だろうか。筋なんて,どこにも通っていないのが現状なのに?

という一節も,とてもよかった(515〜516頁)。