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苦役列車

読書

文藝春秋 2011年 03月号 [雑誌]

文藝春秋 2011年 03月号 [雑誌]

あれほど楽しみにしていたのに,実家にはまだOn Chesil Beachが届いていなかった。人間の欲求というのは面白いもので,あれもしたいこれもしたいと思っていても,そのうちどれかひとつが満たされなければどれも味気なく思えてきてしまう。そういうわけで『GANTZ』の気分は失せてしまい,さらにはNever let me goの気分でもなくなってしまった(が,これは3月の映画公開までに読まないと!)。欲求不満を持て余しながら今朝の新聞をめくっていると,あら,今日は文藝春秋の発売なのね。しかも話題の芥川賞受賞作が載っているのね。そういうわけで母に,仕事のついでに買ってきてもらった。そしてかねてから気になっていた『苦役列車』をとりあえず読んだ。
私小説なので,ドラマチックなわけではなく起伏に富んでいるわけでもなく,濃淡があるわけでもなく,でも面白かった。なんというか,文章にすごい引力があるのです。これは立ち読みした時から衝撃的だったのだが(少なくとも私の琴線には触れた)。作者の実体験に基づいているだけあってリアリティが尋常でなく,作者自身の投影である主人公・貫多の描写にはものすごく力が入っている。19歳で日雇いの人足仕事で生計を立てつつ,中学卒業後に進学しなかったのは「独自の理由や,特に思い定めた進路の為になぞ云った向上心によるものではなく」,「本来ならば自分と同年齢の者の大半がそうであるように,普通に大学生であるのを普通に誇っていたいタイプの男なのである」。しかしこんな貫多なのに一人称が「ぼく」(「俺」じゃないんですね,しかも「僕」ですらないんですね!)であり,「そば」や「刺身」にいたっては丁寧にも「おそば」「お刺身」と描写されている。このことに関しては山田詠美が評を寄せていた。いわく,「……『そば』ではなく『おそば』,『刺身』ではなく『お刺身』,『おれ』ではなく『ぼく』。あまりにもキュート。この愛すべきろくでなしの苦役が芥川賞につながったかと思うと愉快でたまらない」。うーん,ただ,これが「キュート」で「愛すべき」かと言えば,少し違う気がする。「中卒」で「日雇い」で「苦役列車」,勝手に『蟹工船』みたいなのを想像していたが,まぁこれは案の定違った。これまた西村本人の投影であろうが,貫多はものすごく偽悪家なところがあって(芥川賞受賞の記者会見で「(受賞の瞬間は)そろそろ風俗に行こうと思ってました」と言ってのけるあのセンス),そのおかげで貫多に対する視線もこの小説を通しての印象も,いわゆる偽悪家に感じる印象そのものである。嫌悪感を抱くというほどでもなく,本当はさびしいんだろうなぁという,憐憫に似たやるせなさ。したがって石原慎太郎の評である「ピカレスク」も,私の印象とはちょっと違う*1。心から悪いってわけでもなさそうですもん,貫多。ただ,「しょうもない人間」である,というだけで。最後の1行まで貫多は「しょうもない人間」であり続ける。最後の1頁の描写はもう,拍子抜けするほどに秀逸です。
with (ウィズ) 2011年 03月号 [雑誌]

with (ウィズ) 2011年 03月号 [雑誌]

ついでにこれも読んだ。

Day 26 ってことは,彼とソフィーは付き合ってるのカナ?

毎度の着回し。「冬ベーシック+ジャスト買い5着で春までつなぐ50days×2」特集の中の1日ですが,そ,ソフィー!?最近の着回し,ストーリー設定がすごいです。

Q. 彼に「結婚する気がない」と言われたらどうしますか?
A. 今すぐ別れる:52%

こちらは「『結婚につながる恋』『ダメになる恋』どう見極める?」特集より。さすが,25歳前後の女性をターゲットにした雑誌なだけはあります。なによりの関心事です。ちなみに「今すぐ別れる」以外の回答を見ると,「好きだから付き合い続ける:18%」「付き合いながら次を探す:27%」「その他:3%」であった。今すぐ別れるというのも性急な気がするが,好きだから付き合い続けるというのもなぁなぁな感が。付き合いながらうまく誘導しつつ,本格的にダメそうなら次を探しつつ,って感じでどうなんでしょうか……などなど,真剣に考えてしまった。

*1:余談だが,今回私の意見と最も近かったのは石原評だった。石原評,毎回大嫌いなのだが。