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作ってはいけない彼ごはん:手羽先の照り焼き

余暇


研究関係で忙しくなると料理に凝り始める癖があるというのは前にも書いた気がするが,これはわたくしが本日の晩ご飯にと用意したものである。いつもだったら手羽先はサムゲタンにしてしまうのだが,いつも同じでは能がないので,今日は照り焼き(というよりは「照り煮」)にしてみたのである。初めて作った割には,あらっ,なんか,まあまあおいしそうじゃないですか。手羽先×茶色×甘辛な味つけ,もしかして男性の心を鷲掴みにする感じなのでは。おまけに普通は照り焼きに使わない生姜とニンニクをタレに混入しているので,香りもとっても食欲をそそる。また罪なものを作ってしまったわ私は。将来私が何の間違いか料理研究家になった暁には,『作ってあげたい彼ごはん』みたいな本を出して,このレシピを最初に置いて,どうすれば彼の胃袋をつかめるのかわからない迷える乙女たちの海路を照らす灯台となるのよホホホ。銀座は福家書店にてサイン会も開催するわよ。そんなことを妄想しながらひさしぶりに料理を写真におさめたのである。
しかし幸せは長く続かなかった。手羽先って,食べにくいのである。例え一時,見た目がおいしそうで,なおかつ香りもよかったとしても,食べにくいのである。「彼ごはん」を作って,彼だけが食べるわけでもないですよね。必ず向かい合って自分も食べるのですよね。そんな時に指先と口元をネトネトにしながら必死で骨から肉を削ぎ取っていたら。百年どころか千年の恋も一瞬で冷める。「食べ方が汚い」は,「彼/彼女に対してがっかりする瞬間」ランキングみたいなのの上位にいつもランクインしている。ちなみに私は魚だろうが肉だろうが,骨のあるものを綺麗に食べるのが非常に苦手である。両親の名誉のために断わっておくがこれは教育のせいではなく,私が不器用なせいです。ピアノを弾かない人にとって,ピアノを弾く人間は器用に見えるらしい。しかしそれはまったくの間違いである。
そういえば,恋人や好きな人との食事で手羽先を食べている描写のある恋愛小説など,私が読んだ中では見たことがない(ある人は教えてください)。例えば唯川恵が描く「男性との2人の食事」とは,こうである。

病む月 (集英社文庫)
男が豆腐を口に運ぶ。協子がそれを眺める。白く滑らかなかたまりが,男の口の中で,歯をたてずとも崩れてゆく。協子は男から目を離せなくなる。食べるという行為は,どうしてこうも官能に繋がっているのだろう。男の唇が紫に濡れると,ちろりと舌が覗き,素早くなぞってゆく。その時,協子は自分がたまらなくこの目の前の男に欲情しているのを感じる。

唯川ワールド全開という感じだが,少なくとも「彼」との食事というのは,やっぱり絵になるものでなければなりませんよね。うん。本家『作ってあげたい彼ごはん』でも読んで勉強します。