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White Tiger Brigade

勉強

...For example, it was this dialect that cultivated the spirit of the White Tiger Brigade of Aizu, the pinnacle of the Way of the Samurai.

H. Shimoda, "Tongues-Tied: The making of a "National Language" and the discovery of dialects in Meiji Japan" in American Historical Review(June, 2010), p. 731より。一瞬,人名か何かかと思った。ホワイトタイガーブリゲイド……?
ああ!白(White) 虎(Tiger) 隊(Brigade)!!
こんな風に,日本史の英語論文を読むと脳内で専門用語に翻訳されるまで一瞬の間があり,それがとても楽しいです。他にもFirst Sukagawa Higher Elementary School(第一須賀川高等小学校)とか。明治初期の日本の教育システムについて特に注記も何もなく,いきなりこれが出てきたのは気になるところだが。他にもFukushima Prefectural Normal School(福島県師範学校)とか出てきた。白虎隊も白虎隊で,普通にByakkotaiではダメだったのだろうか。それか,Byakkotai(White Tiger Brigade)みたいに,説明的訳は括弧内に表記とか。いきなりホワイトタイガーブリゲイドなんて,しかもそれだけ言われて,もうわたしの頭の中には一瞬でナルニア国物語の世界が広がりました。ホワイトタイガーブリゲイド,絶対味方ですよね。それも秘密兵器的な登場人物。主人公たちがピンチの,それも極限的ピンチの時しか現れず,戦うだけ戦ったら帰っていく感じの。ああかっこいい。僭越ながらC. S. ルイスに,C. S. ルイスに教えて差し上げたい!
肝心の論文の内容の方は,面白いのだけど簡略化しすぎているような気もした。ひとくくりに「方言」と言っても,今でもそうだがおそらく順列がありますよね。例えば関西に題材を取った場合,同じことが言えるかどうか。ましてやこの論文が題材を取るのは主に会津戊辰戦争での敗北を喫した会津の人々にとって,「標準語」を習得するということには「卑俗な言語(Vulgar speech)を根絶する」ということよりももっとデリケートな理由があるはずで,そのあたりの事情が少なくとも論文からは読みとれなかったのが残念。例のひとつとして出てくる柴五郎の幼年期のエピソードに,土佐出身の毛利家に"a live-in errand boy"(詳しい事情はわからないが,つまり商家の丁稚をしていたということ?)として奉公していたが,柴には土佐弁が一語もわからず,それによって毛利家の人々にずいぶんからかわれた……というものがあったのだが,おそらくはこれも柴が土佐弁わかってないからとかそういう理由だけではなくて,会津の人間だからというのはたぶんあると思うのですよね。これはいわば,敗者が勝者の言語を学ぶというパターン,しかも中央から強制されてではなく自発的に。戦略的な面も大いにあると思うのですよね。そのあたりのメンタリティについてもう少し知りたかったなぁという気がする。
でも筆者の下田先生が挙げられている例やエピソードはとにかく鮮烈な印象を残すので,やっぱり面白かった。終始,ディープな方言ワールドでした。例えば

...For example, 'motte ko' is an incorrect way to say 'bring it here'; 'motte oide' is correct... Be careful of students using expressions such as 'iganeka?' to ask, 'Shall we go?' and 'inbe' to reply, 'Let's go.' (p. 728)

Today, when a train conductor on the Aizu Railway calls out "Otsuru shito ga shinde kara onori kudasai," those accustomed to so-called standerd Japanese might chuckle upon hering what sounds like "Please wait for passengers to die before boarding," but they are unlikely to be alarmed. (p. 731)

など。方言を英語訳すると素直に新鮮な驚きですね。確かに「持って来お」は'bring it here'だし,「行がねえか?」は'Shall we go?'だし,それに対する答え「いんべ」は'Let's go'である。シンプル。「おつるしとがしんでからお乗りください」がどう聞こえるかなんて,もはや秀逸です。岡山弁の「早よしねえや(早くしろ)」が霞んで聞こえる(?)。
ああ,それにしても隣接分野の論文なんて自分のインスピレーション源にしなければ意味がないのに,純粋な知的好奇心から楽しんでしまった。何をやっているんだろうかわたしは。とりあえず次は専門ど真ん中のを読もう。