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或る「小倉日記」伝

読書

或る「小倉日記」伝 (新潮文庫―傑作短編集)

或る「小倉日記」伝 (新潮文庫―傑作短編集)

救いのない,やりきれないお話の数々。その中でも,芥川賞受賞作であるところの表題作「或る「小倉日記」伝」などは,その重々しい余韻の中に文学的な詩情がふんだんに残るのだが,自伝的小説「父系の指」などは,自分の中にも必ずあるあまり見たくない部分を無理矢理覗き込まされているようで非常に居たたまれなかった。自らが幸福かどうかというのは絶対評価によってはかられるものであり,またそうであるべきだとは思うのだが,かといって常に誰かと比べず堂々としていられるほど,人は強くない。
それにしても環境のことごとくを不遇にして学問だけを主人公の支えとする,というのは清張の作中人物の扱い方として特徴的な点なのだろうか。「或る「小倉日記」伝」で言えば,耕作は生まれながらに障害があるし,父は早死にして母ふじと2人で身を寄せ合うようにして生きていかなければならないし,……そこまではまぁ,まぁよかったのに,思わせぶりな看護婦山田てる子に縁談を無下に断られたくだりなど,もうわたしは震えました。そこまでやるか清張。