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異邦人

余暇

私は高校生のとき『異邦人』の読書感想文を書いて賞をいただいたが,正直に言おう,『異邦人』自体はそんなに面白いと思わない。しかし「きょう,ママンが死んだ。」はいつ見ても戦慄が走るほどの名訳であると思う。これほど人の心をつかむ書き出しがあるだろうか。「今日母が死んだ」ではこうはいかない。
さて,今や私こそが異邦人である。外国の事務対応は人によって良し悪しの落差が激しいとはよく聞くものだが,悪い方にあたってしまうと結構滅入るものである。昨日は大学のstudent fee officeでその「悪い方」にあたってしまった。(少なくとも)私は,授業料払い込みにあたって3種類の支払い方が提示されていることについてとりあえず質問したかっただけなのだが,私の英語が悪かったのか,どうやら「授業料払い込みの領収書だけ先にくれ」と要求している風に誤解されてしまったのではないかと思う(順を追って説明しようとして「外国人登録に領収書が必要かもしれない」とか言ったのがまずかった)。おばちゃんの事務員に何度も何度も「私があなたにできることは何もないわよ」と繰り返された挙句,「だいたいあんた,学校は9月からなのになんでこんな早く来たんだって移民局で聞かれるわよきっと」と言われた。おばちゃんの言うことはもっともである。授業料を払ってないのに領収書をくれなどと言う(私はそうは言ってないが)学生は十分警戒に値するだろうし,4か月も前から来愛することも客観的に見て非常に怪しい。しかし,こちらにはしっかりした理由があるのだから大きなお世話である。通じない話にイライラしっぱなしだったが,少なくともここでこの人を敵に回していいことはひとつもないので黙って立ち去ったのであった。
さて,「大きなお世話」などと強がりつつも,こんなことを言われて平気でいられるほど肝の据わった人間では残念ながらない。下手すりゃ3か月以内に日本に帰らなければならなくなる。そう心配しはじめると居ても立ってもいられなくなったので,私の状況だけちゃんと説明してビザの申請には何が必要なのか聞いてこようと思い,移民局へ行ってみることにした。
移民局(Garda National Immigration Bureau)は大通りを一本入ったところにあり,いつも混んでいる上に融通がきかない,要領が悪いとの噂は聞いていた。学期が始まる8月や9月ともなれば,開館時刻に行ったのではまずその日の受付に間に合わないとかである。今の時期があまり移動シーズンではないため今日はそこまでではなかったが,それでも人は大勢いた。悪評を先にいろいろ聞いている上,昨日おばちゃんに言われた一件もあり,もともと少なかった戦意はすでに皆無に近い。最悪の場合ビザは下りず,私は日本に帰ることになるかもしれない。しかしものは考えようで,最悪でもペナルティ(?)は「日本に帰る」だけである。一時帰国の予定が早まったと思えばよい。それに要領が悪いだの融通がきかないだの散々な言われようだが,係官のみなさんは日々英語もろくにしゃべれない外国人を相手に一生懸命仕事してくださっているのである。ありがたいと思わなくては。そう思って無理やり気分を立て直し,自分の順番を待つこと10分程度,ようやく私の番となった。
私の相手をしてくれた係官は若い女性で,かくかくしかじかと私が書類を見せながら説明するのを聞くともなく聞いていたが,「この書類はこれでいいから,あとは銀行の残高証明*1と保険の証明書持ってきて」と言った。それと,私の場合は5月〜9月に正式な学生身分がなく(学振の指導委託制度を利用しての渡航なので),正式に博士に入るのは9月からであるため,2度登録が必要であるとも。おばちゃんに脅された後だったということもあるが,私はもう不法入国予備軍扱いされる気満々でいたのである。なのに言われたのが至極まっとうなことであったので大変拍子抜けした。2度ほど確認したし「本当にそれでいいの,ほかに何か持ってくるもんないの」と食い下がったが反応は同じであった(当たり前だが)。
ともあれ,とりあえず無事に外国人登録は済ませられそうな気がしてきた。よかったよかった。2度登録するということは,アイルランドでの外国人登録には1回につき150ユーロかかるから計300ユーロ,少なくない出費にはなってしまうが,まぁでも不法逗留の外国人候補にならないだけよしというものである。銀行の口座が開け次第,お金を入れて残高証明取って,さっさと登録してこよう。ひとつ心配なのは,これもよく聞く移民局の悪評として「行くたびに言われることが違って何度かは必ず足を運ぶ」というのがあるということであるが。今日の人は相当「当たり」に近い人だったようだし,次回「はずれ」だったらどうしようかしら。
当たり前ではあるが,ヨーロッパは国によって外国人への対応がさまざまに異なる。日本→アイルランドの場合,入国の際に前もってビザを取得しておく必要がなく,入国から1か月以内にこうして外国人登録をすることになるのだが,これがたとえばフランスなどの場合は非常に面倒な手続きを踏んでビザを取得しておかなければならないため,出国前には同期から非常に羨ましがられたものである。しかし,いざ行ってからの心配事がないという面では,私から言わせてもらうと事前にビザを取得しておく方が気楽な気もする。まぁ一長一短でしょうが。
はぁ,しかし冒頭で述べた私の感想文,そういえば結びはこうであった。「私は,誇り高い『異邦人』なのだと。」今考えれば縁起でもないことを書いたものだ。誇り高くなくてもいいから,とりあえず「怪しい」異邦人は脱却しなければ。

*1:アイルランドで学生ビザを取得するためにはアイルランドの銀行口座に3000ユーロ以上の残高があることを証明しなければなりません。