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It sounds like something in the next world.

MABEL CHILTERN: An ideal husband! Oh, I don't think I should like that. It sounds like something in the next world.

LORD CAVERSHAM: What do you want him to be then, dear?

MABEL CHILTERN: He can be what he chooses. All I want is to be ... to be ... oh! a real wife to him.

Gate theatreで『理想の夫』を観てきた。いやー,笑った。前『ピグマリオン』観たときにイギリス上流階級英語に付いて行けずに困った経験があったので,今回もどうだろうとひそかに心配していたのだが,そんなことはなくいたって楽しく観劇できた。

パンフレットの解説を見ると,パーネルのスキャンダルで浮き彫りになった新興中産階級のけたたましいモラル観とか偽善的な潔癖さとかを皮肉った作品であるようで,そう考えてみると確かに一人の政治家のキャリアがインサイダー取引のスキャンダルによって脅かされるという筋書きはパーネル事件そのものである。パーネルやっていたのももう6年も前になってしまったし,それからすぐに足を洗ってしまったのでまったく気づけなかったのだが。

MRS CHEVELEY: [...]Remember to what a point your Puritaism in England has brought you. In old days nobody pretended to be a bit better than his neighbours. In fact, to be a bit better than one's neighbour was considered excessively vulgar and middle-class. Nowadays, with our modern mania for morality, everyone has to pose as a paragon of purity, incorruputibility, and all the other seven deadly virtues - and what is the result? [...]

パーネル事件に見るミドルクラス的価値観というのは,要するに「悪いものを糾弾するのは正義」で「不倫はダメ,ゼッタイ」だから「自分たちには糾弾する権利がある」と無邪気に考えてしまう恐ろしさである。しかしその根源は「信じていたのに自分たちを裏切るなんて許せない!」という自分可愛さで,かつスキャンダルなんてエンターテインメントなんだから,行為自体が正しいかどうかはこの際据え置かれるという恐ろしさも。この劇ではそうしたモラルの金科玉条の前にあたふたする人々を最終的に救うのがダブルスタンダードの体現者たるゴーリング卿であるわけで,そのあたりなるほど皮肉が効いている。何を隠そう私自身も結構ミドルクラス的価値観の持ち主で,とにかく「非常識」とかが許せなくなりがちなのですが,でもそれを言う自分はどうなんだろうってことですよね。ミドルクラス的価値観をせせら笑う人間(ミドルクラス的価値観の持ち主)こそが真に醜いというわけで。この劇でやっぱり一番魅力的なのはゴーリング卿だし,スキャンダルを逆手に,モラルで自分を縛り付けてきた人々をてんてこ舞いさせてやれ!とばかりに活躍する悪役チェヴリー夫人もやっぱり魅力的である。そんな中で「理想の夫なんてきっとどこかよその世界のもの,私は彼の現実の妻になりますわ」と言えるメイベルはとてもチャーミング。

パーネル事件はやっぱり奥が深いし,ワイルドもやっぱり奥が深い。『ドリアン・グレイ』だけ読んでワイルドをわかったような気になっていたら痛い目に遭いますね。ワイルドってアイルランド人作家というよりもイギリスの文豪というイメージが強くて,私もずっとその印象だったのだが,ワイルドを専攻している友人に聞くと最近では「アイルランド人として」のワイルドに注目する研究も増えてきているのだとか。パンフレットの解説を書いた先生はまさにその第一人者であるようだった。

Wilde the Irishman

Wilde the Irishman

 

 冒頭にも書いた通り『ピグマリオン』で苦労したので,今回はちゃんと予習して行ったのだが,ワイルドの戯曲って「気の利いた台詞」にやたら気が散ってなかなか読み進められない。やはり舞台での掛け合いを見て血が通ってきますね。そして演劇が20ユーロくらいで観られるというのはやはり贅沢。