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私の日経WOMAN的キャリア女子・コンプレックス

本日のタイトルはフランク・オコナーの『ぼくのエディプス・コンプレックス』から取っている。しかしそんなことは本題とまったく関係ない。 

日経WOMAN(ウーマン)2015年2月号[雑誌]

日経WOMAN(ウーマン)2015年2月号[雑誌]

 

いきなりで恐縮ですが,私は,キラキラしたキャリア女性に憧れている。「キラキラしたキャリア女性」にモデルはない。20代で大きなプロジェクトに関わったり,はたまた独立して代表取締役になったり,週末は「美ジョガー」としてランニングに興じたり,恋人のことはもちろん「彼氏」だなんて通俗的な呼び方をせず「パートナー」と呼んだりする,そういう漠とした概念を集めたイデアのようなものである。こんなことをいうと誤解されそうだが,小馬鹿にしているのではない。願わくは自分もそのようになりたいと心底憧れているのである。この私の「キラキラしたキャリア女性・コンプレックス」もしくは「キラキラしたキャリア女性・オブセッション*1のようなものの部品をワンピースずつワンピースずつデアゴスティーニのような要領で私に与え続け,しまいに大きく増殖させた元凶,それこそがこの雑誌,日経WOMANである。

あれは確か7年ほど前だっただろうか,修論執筆の気分転換にふらふらとお散歩に出た私は,当時住んでいた家の目と鼻の先にあるサンクスでこの日経WOMANを手にしたのである。そう,私の言う「キラキラしたキャリア女性」のバイブルであるところのこの雑誌を。その時の表紙が柴咲コウであり,特集が「朝時間の過ごし方」であったことまで,はっきり覚えている。日経WOMAN,もちろん存在は知っていたけれども買ったことはなかった。しかし修論を執筆するだけで部屋から出ない単調な毎日に若干の焦りもあったのかもしれないが,私にはその日経WOMANが天啓のように思われたのだ。ああ,これこそ私の望んでいた世界,と。そしてそれから,毎号ではないにせよ,アホみたいに買い続けてはや7年(特に「朝時間の過ごし方」「手帳の使い方」特集と見るや問答無用で買い続けてきたのではないか*2)。そして今月号の特集,「最高の1年が手に入る!私を変える100の方法」ああなんて魅力的。買います。買いました。*3

で,今月号の「100の方法」とやら,どんなことが書いてあるのかというと,やはりこれがもう,小気味いいほどの日経WOMANイズムに充ち満ちている。たとえば「やりたいことや夢を100個書き出してみる」(19頁)。たとえば「朝,起きたら『今日もいい1日になります!』と自分に言う」*4(25頁)。たとえば「人からもらった大切な言葉を書き出す」(28頁)。たとえば「『方眼ノート』で,仕事ができる人になる!」(48頁)。日経WOMAN購読歴7年にもなると,何度も目にしたポジティブな方法の数々である。ジェイムズ・ジョイスは「ダブリンが滅んでも『ユリシーズ』があれば煉瓦の1つ1つにいたるまで再現できる」と豪語したそうだが,日経BP社が滅んでも,私がいれば一言一句にいたるまで日経WOMANを再現できるかもしれない。そして上に挙げたような「ハッピーになるための方法論」の数々は,まさにその,煉瓦の1つ1つにあたるようなもの。男性諸氏にはくだらないと思われるかもしれないが,こういうのが好きな女って本当に多いのだ。私だって例外ではない。何を隠そう,「新月の夜に断定形で願い事を書く」デクラレーションとかいうやつ,一時期やってましたよ。笑うなら笑えよ。

さて,こういうことを提案されて,やるかというと,うーん,まぁ,100ある方法のうち2,3個試してみるかみないかというところだろうか。だってそうでしょう。私が起床していきなり「今日もいい日になります♡」とか言っていたら,自分を変えるどころかまずハウスメイトたちに心配されてしまう。でも,そんなのでいいのである。そんなので十分なのである。もはや私にとって日経WOMANは趣の異なる占いみたいなもので,自分にとって都合のいいことだけを抽出して参考にすればいいし,それだって当たるも八卦というやつで,それを試して人生が好転しなかったからと言ってクレームをつけたりはしない。でも,買って読んでいるだけで,なんか気分はポジティブになりますし。むしろ買うだけでなんかデキる女になった気さえするし。そんな「私,なんか,変われるかもしれない!え?そもそも変わりたいのかどうか?よくわからない!でもなんか,いい感じに!」という根拠のない高揚感と向上心を与えてくれるなら,内容は割と既視感に溢れているものであっても(でも雑誌なんてどれもそうじゃない?),買って読むだけの価値はあるというもの。今月もありがとう, 日経WOMAN。「一日だけ幸せでいたいならば、床屋に行け。一週間だけ幸せでいたいなら、車を買え。(後略)」ということわざがあるが,これに従えば日経WOMANは車と同等くらいのポジティブシンキングをもたらしてくれるというわけである。

ちなみにこの「100の方法」よりも私にとってダメージ大だったのは,49頁から始まる「海外で活躍する女性の24時間拝見!」。みなさん,なんて立派な方ばかりなのだろう。海外で働いていることを鼻にかけることもせず,またかぶれることもなく,公平な目線で日本と海外を見比べ,素敵な「パートナー」とお互いに支え合いながら生きている。それに引き替え私……いや,やめておこう。日経WOMANから勇気を得ている同世代の女性は多いと思うが,結局のところ私にとっては,日本でバリバリ働いているキャリア女性の話はある種「異世界」の話であり,だからこそ惹かれてきたのかもしれない。日本にいた時だって,私は学生だったわけだし。今の私にとっては,「海外で活躍する女性」の方がよほど身に迫った話として感じられ,だからこそダメージが大きかったような気もする。

そういうわけで,またいつもの結論にはなるが,「キラキラしたキャリア女性」なんて茫漠たる理想にいつまでもしがみついていないで,博論がんばろう。まぁ今日も,院生室で研究したあと,学校のスポーツセンターに行くかどうかしばらく考えて,結局行かなかったような人間であるから,仕事終わりに皇居ランをするような日経WOMAN的キャリア女性には遠く及ばないのだが。とりあえず今日寝る前に,「明日もいい日になりますね」と小さい声で言ってみようかしら。

あ,あとひとつ,重要なことですが,

*1:ジェーン・スーが『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』の中で「ていねいな暮らしオブセッション」という現象を取り上げていたが,おそらくそれに似ている。まぁ,このことはまたおいおい書こうと思う。

貴様いつまで女子でいるつもりだ問題

貴様いつまで女子でいるつもりだ問題

 

 

*2:まぁ,身も蓋もないことを言いますと,内容はほとんど変わりません。

*3:あ,そうそう,留学や海外赴任をなさるみなさまにはぜひ,iPadキンドルを購入なさるようおすすめしたいですね。日本の雑誌や新書が多く読めますから。ライトな日本語書籍が読みたいという欲求は突然発作のように訪れるので,甘く見てはいけません。私は未経験だが,漫画も買えるし。

*4:これに対応する習慣として,寝る前には「『明日もいい日になりますね』と自分に言葉かけ」というものもある(27頁)。