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16GBの恋の歴史

私は携帯音楽プレーヤーとして,iPodではなくWALKMANをずっと愛用している。*1今使っているWALKMANは2代目で,確か2012年の冬に修理に出してバッテリーを交換したのだが,そのバッテリーのもちも最近悪くなってきてしまったので,この前帰国したときに3代目を購入した。ちなみにまたしてもSシリーズ。

 ハイレゾ音源が聴けるとかいうAシリーズにも心が動いたが,値段がかなり違っていたし,どうせ3年くらいで買い替えるわけだし,と今回はやめておいた。だいたい,その場ではどうしても矜持が許さず聞けなかったが,ハイレゾって何?あと,そんなに「音の良し悪し」って違う?私これ実感したことがほとんどないんですけど,一家言おありの方,どうか私にも納得できるように説明していただけませんか?*2

 しかしこういうものを買い替えた時って,中身の入れ替えがすこぶる面倒臭い。そういうわけで今回も,買ってから実に2週間強放置していた。しかしそうしている間にも2代目のバッテリーはますます衰微し,お願いだからもう勘弁してくだせえ,と小作人の声が聞こえるようである。なので今日は重い腰を上げ,いや腰は下ろしたままなのだが,ともかく内容を取捨選択しつつ入れ替えを始めたのである。

何年も使ってきた2代目には,わずか4MBを残して容量ギリギリまで音楽を詰め込んでいる。しかし,もちろん毎日毎日どれもこれも聴いているわけではない。むしろジャニーズばっかり聴いている。今回移し替えるにあたって,これはしばらく聴いてないなとか,このアルバム結局この曲しか聴いてないなとか,そういう場合は3代目には移さないことにした。あっさり捨てられるかと思いきや,これがなかなか甘美な切なさを伴う作業であった。特に私が10代の頃よく聴いていた洋楽からは,歌手名とタイトルだけで様々な思い出が蘇った。昔弾いた曲をまた弾くのはまるで昔の恋人に再会するようだ,とあるピアニストが語っていたが,まさにそれは恋の歴史のようだった。シャンテ・ムーア,アヴリル・ラヴィーンアシャンティ,私の青春を彩った2000年代初頭の洋楽の数々を,私は2代目WALKMANに置いておくことにした。バスの中で,MDプレーヤーでこれらを聴いていた高校時代が思い出された。岡山の田舎で,こんな洋楽の世界観とはおよそかけ離れた世界で生きていたのに,こういうものばっかり聴いていた。毎日毎日MTV*3を見て,岡山や倉敷タワレコでCDを買って,同じく洋楽好きの同級生たちと貸し借りし合っていた。みんな土曜の「コスモポップスベスト10」を聴いていた。みんな英語が好きで,地歴は世界史を選択していた。*4みんな洋画も好きだった。はっきりそうとは気づいていなかったかもしれないが,たぶんわかりやすく広い世界に,異文化に,憧れていたんだと思う。そして私は今,こうしてヨーロッパに留学している。今の私はもう必要とはしていなくても,昔の私にとっては何よりも必要なモチベーション源だった。そして今の私がある(と言えるほど立派なものではないが)のは洋楽かぶれだった10代のおかげである。本当に感謝している。

……と,時折こんな風に,別れた恋人の写真を見る勘違い男*5のような心境になりながら,私は粛々と取捨選択をした。*6作業の傍らであったので本当に一日がかりになってしまったが,先ほどようやく作業が完了した。洋楽とクラシックはほぼ厳選し,好きなものだけを集めたプレーヤーは,今2GBほどを残している。およそ14GBの好きな音楽と,2GBのこれから好きになる音楽が私を待っていると思うと嬉しい。これからどうぞよろしく,3代目WALKMAN。美しい恋にするよ!*7

The Master And Margarita (Penguin Classics)

The Master And Margarita (Penguin Classics)

  • 作者: Mikhail Bulgakov,Larissa Volokhonsky,Richard Pevear
  • 出版社/メーカー: Penguin Classics
  • 発売日: 2007/09/06
  • メディア: ペーパーバック
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 ちなみに。この前読書について書いていたとき,Askでいただいたご質問と回答に言及した。回答の中で私は「ブルガーコフ巨匠とマルガリータ』を読みたい読みたいと思いつつ読めていない」と述べたが,そう書くといよいよ読みたくなって,先日図書館で借りたのである。で,読み始めたのだが……なんだこの奇書!体制批判もの面白そう,と軽い気持ちで読み始めた私がアホであった。ロシアの,しかも体制批判もの。一筋縄でいくわけがない。早くも挫折しそうである。無謀にも英語版に挑戦した私が悪かったのか。おとなしく日本語版を読むべきか。

When We Were Orphans

When We Were Orphans

 

 おかげで少し,カズオ・イシグロ『私たちが孤児だったころ』に逃げ気味である。こちらは読みやすい。少なくとも情景が想像できる。

*1:主な理由は3つ:①iPodだと曲を選んだりするためにいちいちロックを解除したりしなければいけないし,手袋をしている時などタッチパネルは不便 ②持ち運ぶにあたって大きいでしょ,あれ ③そもそも「世界のアップル様」を私は大好きになれない。

*2:たぶんTwitterだったかで見たのだと思うが,この「ハイレゾ」で蘭寿とむの歌を聴いた方がハイレゾ音源を絶賛していらした。ラントムの声が優しく深く響くのだと。……ラントムの声はラントムの声じゃない?違う?

*3:そのころのMTVは今のようなリアリティショーばかりではなくて,ただただビデオクリップを流し続けるとてもいいチャンネルだった。特に土曜23時から2時間にわたってヒットチャート上位20位のビデオクリップがフル放送されるのが1週間でいちばんの楽しみだった。MTVが様変わりしてしまったのが,私の洋楽離れの主因だと思う。

*4:私は2科目必要だったので関係なかったが,メインは世界史だった。

*5:別れた後に昔の恋人に会いたくなり,さらに「あの時の俺にとってお前は必要だったぜ,センキュー」と告げたくなる男性のみなさん,そういう気持ちになるのまでは構わないから,お願いだからそれを実行しないでください。すこぶる評判悪いです。たいていの場合,女にとって別れた男はただの汚点です。美しい思い出などありません。

*6:だいたいは「うわっこんなのあったなぁそういえば……!」である。Lillixとか聴いてた!

*7:NEWS「美しい恋にするよ」コンサートDVDについて昨日書いた記事をたくさんの方が読んでくださったことに心から感謝申し上げます!みなさま『美しい恋にするよ』ご覧くださいね!