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THE DIGITALIAN

日曜の昼下がり,私はいつものように院生室にいて,3月の学会に応募するための要旨を書いていた。しかし300ワード程度の執筆は遅々として進まず,苛立ち,そして強烈な睡魔が襲ってきた。机から肘が落ちたことではっと覚醒し,これはいけない,と目を覚ますために少し音楽を聴くことにした。以上が,リリースされてからほぼ4か月経って,ようやく『THE DIGITALIAN』を聴いたいきさつである。

The Digitalian < Cd+Dvd >

The Digitalian < Cd+Dvd >

 

 4か月も放置していた理由は2つあって,ひとつは昨日書いた通り,私の古いWALKMANはもう1曲入るか入らないかというほど容量いっぱいいっぱいであり,とてもじゃないが新しいアルバムなど入れられる状態ではなかったということ。もうひとつは前作『LOVE』があまりにも私の好みではなかったため,今回もどうせ大したことないんだろうと高をくくっていたということである。そもそもこの初回盤のジャケットも,アルチンボルドをイメージしたのだろうが,何やら「スタイリッシュにしよう」という欲が透けて見え,確かにオシャレではあるけれどもあまり好きにはなれなかった。

『LOVE』が好きでなかったというのは,これは単に個人的な好みの問題だろうが,私は何よりも「アイドル」である嵐が好きだからだ。数年前,『情熱大陸』で二宮和也が取り上げられた時,『硫黄島からの手紙』の記者会見の中で彼は「僕は俳優ではございません。日本では歌って踊っていますし,5人でグループとして活動しています」と語っていた。私はそのプロフェッショナルな意識にいたく感動したし,またそれは私だけではなかったはずである。誰もがアイドルないしジャニーズを「子供だまし」の存在として認識していた。アイドルへの情熱をティーンエイジャーにのみ許された一過性のものと信じて疑わず,「いい大人」になってなおアイドルを追いかける人間は痛々しいと思われていた。それはアイドル自身にしても同じだっただろう。「アイドル」は「若いうちが華」の職業であった。そのイメージを覆した「万人のためのアイドル」にして「ライフワークとしてのアイドル」,さらに「他の追随を許さないアイドル」,それこそが嵐である。嵐のおかげで,「アイドルが好き」「ジャニーズが好き」ということに昔よりもずっと胸を張ることができるようになったし,救われた人はずいぶん多かったのではないか。

しかし,そんな中でリリースされた『LOVE』は,明らかに「アイドル」から「アーティスト」への脱皮を狙った作品だった。ニューヨーク仕込みのダンス,「クール」に「洗練」されたサウンド,どれもが「大人の嵐」を押し出していた。押し出していたからこそ,居心地が悪かった。もちろんそれが悪いと言うのではない。「そればかり」というのが好きになれなかったのだ。ポップで仲良しな嵐のイメージを覆す,ダークだったりセクシーだったりする曲を「口直し」程度に入れるのは構わない。それどころか,それは多くの人に望まれていることだろう。*1しかしそればかりというのは,本当に誰もが望んでいることなのだろうか。嵐はもちろん,すでに「ジャニーズアイドル」の枠を超えている。しかし,だからこそ,「ジャニーズアイドル」であるという大前提を大切にしてほしいのだ。二宮和也が言ったように,アイドルであるということに誇りを持ってほしかった。そういった諸々の感情が渦巻いて,16年来の嵐ファンである私には『LOVE』がもはや裏切りのようにすら感じられた。彼らが売りにした「クール」さも「洗練」もすべて表層的なものにしか思えなかった。何度か試したが,やはり好きになれず,結局今も『P・A・R・A・D・O・X』くらいしか聴いていない。

しかし今回のアルバムは違った。リード曲『Zero-G』はどちらかと言えば上に書いたような「ダークだったりセクシーだったりする曲」に当たるだろう。聴き始めて一瞬,「もしかして,また『LOVE』の路線では」と警戒する。しかしこれが「アイドルな嵐」と「大人な嵐」のバランス感覚が素晴らしいダンスナンバーであり,特にサビはとてもキャッチ―で耳に残る。「Knock it 軒並み knock you out」という独特の言葉選びも面白いし,まさに向かうところ敵なしの嵐が歌うにふさわしい言葉である。この「バランス感覚」はこのアルバムに一貫して言えることだろう。昔からの嵐を好きな人も,あるいは「大人の嵐」が好きな人も,どちらも楽しめるような構成になっている。『Bittersweet』『GUTS!』『誰も知らない』のシングル曲3曲については私が今更何を書くまでもないので,アルバム収録曲について少し書くと,『THE DIGITALIAN』の名にふさわしく最もデジタルな曲である『Asterisk』は,音声を加工するなどテクノ風なアレンジも加わりながらも,楽曲自体は『Popcorn』の『Waiting for you』を彷彿とさせるような爽やかな嵐である。個人的に一番気に入ったのは『TRAP』で,これこそみんなが求めている「口直し」系のセクシー嵐!と興奮した。歌い出しの「有能ぶるその態度も余裕の表情もここまでです」やサビ「どんなSpeedで逃げようが/分かるだろう?You are in the TRAP」など,ポップで仲良しな国民的アイドルがたまに見せる不敵な表情に戦慄する。壁際に獲物を追い詰めてサディスティックな笑みを浮かべるような「覚悟決めるのが精一杯」という歌詞は,嵐がファンに対して改めて宣戦布告しているようにも取れる。これまでの嵐にはついてこられたかもしれないが,さてこれからはどうかな?と。

ソロ曲もそれぞれに個性があって魅力的である。特に気に入ったのは相葉雅紀『Disco Star』と二宮和也『メリークリスマス』。この2曲についての評判は既に聞いていたものの,いざ自分で聴いてみるとこれが本当にいい。これまで相葉雅紀のソロ曲と言えば,『いつかのSummer』など,本人のイメージを彷彿とさせるピースフルな楽曲が多かった。しかし今回の『Disco Star』は,これまで通りの「スーパーアイドル相葉ちゃん」な陽気さも出しながら,それでいて「正真正銘のI'm a disco star」「泣く子も黙るI'm a disco star」と煽ることを忘れない。*2対して,二宮和也のソロ曲は「アイドル」を前面に出した『秘密』から一転してセクシーな『Gimmick game』までかなり幅広いことで知られているが,今回のソロ曲はクリスマスケーキ売りのアルバイトをする青年がバイト仲間の女の子に恋をするストーリーになっていて,とても可愛らしい。ケーキ売りのバイトにとってクリスマスなんて楽しくもなんともないだろうが,「今日初めてこんな素敵な季節と知りました」という一節に,どういう形であれ好きな相手とクリスマスを過ごせる喜びが表れているし,「最後に一言「メリークリスマス!」」という締めくくりの歌詞もチャーミングである。それは本当に,「Merry christmas」ではなく等身大の「メリークリスマス」。もはやミニドラマか映画にすればよい,というか『MIRACLE デビクロくんの恋と魔法』の主題歌にすればよかったのに!

そういうわけで,もとはといえば要旨執筆が進まないために「こういう時に聴かないと聴かないだろうし」と思って聴き始めたアルバムだったが,思いのほかものすごく気に入ってしまった。おそらく,しばらくは歩く時のBGMになるだろう。

それにしても悔やまれるのは,やはり昨年末の嵐のコンサートに落選したことだ。あの時は腹も立ったが,「すっぱい葡萄」効果で,まぁどうせ『THE DIGITALIAN』も表層的なオシャレさだけを追求したアルバムだろうし,とさっさと諦めがついていたのだ。話題性狙いだかなんだか知らないが,ファンライトとやら変なグッズまで作って,と。しかし今や,というか今にして,ものすごく悔やまれる!私だって「デジデジ」したかった!ファンライト振りたかった!「会員なのにコンサート行けないとかふざけてんじゃないの?」と更新を迷っていたファンクラブ,

勢いでキスマイと一緒に更新してきて本当によかった!

次回こそは!次回こそは当たりますように!ああ,こうして私はまた,ジャニーズ事務所の罠に嵌まる。「どんなSpeedで逃げようが/分かるだろう?You are in the TRAP」,しかしそれは限りなく甘美な夢を見せてくれる罠。むしろその夢についていけるのか。本当に,「覚悟決めるのが精一杯」かもしれない。

*1:シングルで言えば『truth』や『Crazy moon ~キミ・ハ・ム・テ・キ~』など。

*2:ちなみに,コンサートでもこのソロ曲はかなり盛り上がったのだと聞いている。