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反撃の嚆矢だ

文章を書くとき,人が頭の中で考える方法にはいろいろあると思うが,私の場合は書き言葉のまま頭に流れてくる感じである。*1それは英語で文章を書くときもそうなのだが,もどかしいのは英語で書くとき,日本語で考えているときと英語で考えているときとがあるということである。日本語で考えているときはそれを英語に書きおこすにあたって翻訳しなければならないので,日本語の「原文」と英語の「訳文」との間で,細かいニュアンスの違いなどがとても気にかかる。今日は「アレクサンドラ・カレッジの設立はアイルランド女子高等教育の嚆矢となった」という文章が頭に流れてきたので,これを英語に直そうとしたのだが,「嚆矢」の適当な訳が思い浮かばない。ためしに電子辞書に入っている和英辞典を引いてみると,以下のように出る。

嚆矢

[最初]the beginning; the first instance; the first <<person>>.

 ふざけるな。

いいですか。「嚆矢」というのはかぶら矢ですよ。那須与一が扇の的を射るやつですよ。射ると音が鳴るんですよ。それが開戦の合図に使われたから,それが転じて「はじまり」なんですよ。だからただの始まりじゃないんだ。戦いの始まりかつ宣戦布告なんですよ。それをなんだ,the beginningって。舐めとんか。英語がわからないと思って。これでもし"The establishment of the Alexandra College was the beginning of the girls' higher education in Ireland"とか訳してみろ。途端に「アレクサンドラ・カレッジの設立はアイルランド高等女子教育のはじまりになりました。」となるわ。というわけで,私は心の中で舌打ちしながら次にシソーラスを引く。そのものずばりではないが,"outset"という割と近い表現を見つける。とりあえずこれにしておく。ちなみに今,アルク英辞郎を引いてみると,"pioneering figure"というものが出てきた。素晴らしい。これも「嚆矢」そのものではないかもしれないが,少なくとも"beginning"よりはずっと近い。某社にはしっかり反省していただきたい。営業妨害になるかもしれないから,ここで名前は出さないけど。

しかし本当に,外国語で文章を書くもどかしさというのはこれに尽きる。語彙も表現も日本語に比べて圧倒的に乏しいから(自分が悪いのだが),日本語のニュアンスが伝わらない。英作文は難しいことを書かなくていいから平易な表現で伝わるように書けばいいという受験のテクニックも,まったく正しいし,会話ではその方がいいと思う。しかし,やはり外国語もある程度のレベルになると,文体や表現にもちゃんと気を使えるようになりたい。ただこれは膨大な読書量を必要とするので,一朝一夕にどうなるものではない。結果,中学レベルかせいぜい高校レベルの英文で(謙遜であってほしいものだ)博士論文を執筆することになり,膨大なストレスが溜まる。もはや毎日この日記を書いているのは,そのストレスを発散するためである。私だって,他のネイティブの院生のようにきれいな言葉を使って格好良い文章を書きたい。*2あああもう。

あ,ちなみに1日600語計画は今のところ割と順調に進んでいます。上に書いた通り,書いていて自分で泣きそうになるような英語のレベルではあるけれど。今日は625語書いた。むしろ今までなぜ書かなかったのか。いや,書いているつもりではあったのだけど。

*1:だから,この日記の口調はそのまま私の思考です。少なくとも19歳の時からずっと「だ・である調」の思考をしています。友人には「だ・である調」の文章でブログを書く女子大生がいてたまるかと何度も嘲笑されました。

*2:ちなみに,院生になると話し言葉も小難しい言葉になる,というのは日本もこちらも同じようである。私も日本語では日常会話で「嚆矢」とか言います。書き言葉調の話し方をしますがこれは決して衒学的に装っているわけではなくてもはや職業病で,と書こうと思ったが「衒学的」とかいう言葉も日常会話で使う言葉ではないなと思ってちょっと道に迷っています。