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神は言われた。「史料あれ」

幸いなことにというかなんというか,この日記は多くの方に読んでいただいているようである。毎日毎日,アホみたいな日常をアホみたいに綴っているだけなのに,ありがたいことである。できることなら,私だって読者のみなさまにエンターテインメントを提供したい。謎に包まれた雇い主チャーリーの指令に従い,美女の友人2人とともに,黒衣装にハイヒール姿で悪者を倒すとか,*1記憶喪失になってそのまま訓練を受けて諜報部員となり,大陸でありとあらゆる機密事項が記された極秘文書"ブラック・ノート"を奪う任務に就くとか,*2あるいはIRAプロヴィジョナルのおっちゃんと仲良くパブでビールを奢り合いつつ,さりげなく戦闘行為の中止を促しアイルランド島に平和をもたらすとか,そういう胸のすくような活劇をお目にかけたい。しかしそんな手腕も機会もないから,今日は修道院へ史料調査に出かけたお話をするのである。

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出るときに写真を撮ったので日が陰り気味なのが残念だが,こちらが今日出かけたドミニコ会の女子修道院。家からほんの15分くらいのところにある。今日の目的はこの修道院付属の女子校の関連史料を見ることだった。それにしても土曜日に史料調査をさせてくれるなんて,我々のような切羽詰まった院生にとってはそれこそが神の恩寵である。史料調査ついでに洗礼も受けてこようかとすら思った。

しかし私はこの修道院の正門と裏門をすっかり間違えていたようで(だってGoogleマップで調べたら裏門への道が表示されたから!),アーキヴィストさんに連絡するも,私が「いま正門にいる」と言っても伝わるはずもなく,結局ようやく会えたのは約束の時間の30分後だった。おばあちゃんアーキヴィストさんは少々ご立腹であり,正門から修道院へ私を車で連れて行ってくれる途中ずっと「裏門にいるなんて」「あなた道がわからないなんて一言も言わなかったじゃないの」と小言を言い続けていた。私は平謝りしていたが,いじわるばあさんだなと苦々しく思っていた。

おばあちゃんアーキヴィストさんは一通り言ってしまうとすっかり機嫌を直したようで,史料を持ってきてくれたのだが,ここにある史料はどうやら少なそうだった。ただ少ない中でもとても良さそうな史料が3点見つかったのはすばらしい収穫だった。当然大丈夫だろうと思って写真を撮ってよいか聞くと,思いのほかコピーライトポリシーがものすごくしっかりしていて,史料の写真を撮る際には全部のページの半分以下しか写真を撮ってはいけない+写真を撮ったものに関しては紙に記入して提出すること,と言われた。他の場所のドミニコ会修道院には来週の火曜と水曜も行くのだが,このポリシーはドミニコ会の文書館で一貫しているという。文書館で写真を撮らせないことほど残虐な仕打ちはない。史料を見つけたいから行くのに,どうか史料があまり出てきませんようにという気分にすらなる。

そういうわけで,厳しいガイドラインはありつつも,まあまあ楽観的な見通しとともに今日の史料調査を終えることができた。おばあちゃんアーキヴィストは史料を見ながらいろいろ話したり(ドミニコ会の理念とかまで教えてくださったが,ただでさえ時間がなかったので申し訳ないとは思いつつそわそわしていた)しているうちに機嫌を直すどころか機嫌がとてもよくなったようで,帰りには修道院の中のチャペルまで見せてくれた。なんせ観光用でない修道院に入ったのは初めてだったので,目に入るものすべてが珍しかった。案外,割と楽しそうな女子寮みたいな感じだったというのが最も驚いたところかもしれない。

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おまけ。これは史料調査から帰ってその足でちょっと近所に買い物に出た時に見つけた。この家(うちから3ブロックくらい先)は玄関ドアの横に茶色いプラークが付いていて,ジェームズ・ジョイスが幼少期に住んでいたということが書かれている。それだけでもえらいことなのだが,なんとこの物件が貸しに出ている。えらいことですよ。だってジョイスんちに住めるんだよ。日本のジョイス研究者のみなさまはぜひ真剣に検討なさるとよいのではないだろうか。このあたりは(少なくともマーテロ・タワーよりは)立地も抜群なので,ジョイス研究者専用の宿舎にでもすればいいと思う。ただし,私はお友達のよしみで泊めていただければうれしいです。

ちなみにこの日記によって読者のみなさまがアイルランドに少しでも興味を持っていただければアイルランド史研究者としてこれに過ぎたる幸福はないので,ジェームズ・ジョイスって誰?という方々のために,代表作を2点貼っておきます。 

ダブリンの市民 (岩波文庫)

ダブリンの市民 (岩波文庫)

 

他にも『ダブリン市民』(新潮文庫)や『ダブリナーズ』(新潮文庫)や『ダブリンの人びと』(ちくま文庫)など,訳書多数。ちなみに私が一番好きな"Dubliners"の訳は「ダブリンの人びと」。

ジョイス『ユリシーズ』全4巻セット (集英社文庫)

ジョイス『ユリシーズ』全4巻セット (集英社文庫)

 

 名作だと思うから,大著だと思うから足がすくむのであって,たとえば星井七億さんが得意とされている「誰かの特有の口調/文体を真似て何かを書く」というのを,ジョイスはこの『ユリシーズ』の中でいくつもやってのけている。だからきっと,「元ネタ」をわかった人が「ふふん」とほくそ笑むあるいは爆笑する,という楽しみ方は同じなんじゃないかと思う。私は何人ものインテリアイルランド人に,「『ユリシーズ』なんて所詮小説なんだから,ただ楽しく読めばいいんだよ」と言われたことがある。

あと,魅惑的なこと言いますよ。禁書です

*1:ちなみに大学1年の時,ヒールに音を上げるたびに友達と「ヒールで戦わなきゃいけないのにそんなんでどうするの!」と発破をかけあっていました。

*2:ジョーカー・ゲーム』見たかったなぁ。