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海外留学金策シリーズその1:学ぶ金欲しさに~海外留学奨学金事情(博士課程編)~

3/21~24の間,先輩を訪ねてボルドーに旅行していました。ボルドーはとても素敵なところで,ワインも料理も絶品でした。メドックのシャトーめぐりにも行きましたし,毎日毎日美酒に明け暮れていました。はぁ。もう終わったなんて信じたくない。

そして帰ってきてしばらく余韻に浸るつもりが,空港からのバスの中でWi-fiにつないだらアイルランド文科省から驚愕のメールが来ていてぶったまげ,強制的に現実に引き戻される羽目になった。今日ようやく落ち着いたが,昨日まで本当に生きた心地がしなかった。いや,落ち着いているつもりだったのだけど,洗濯機のふたを開けたまま回そうとして動かないのを不審がったりしていたので,たぶん平常心ではなかったのだと思う。なので今日はちょっと,博士課程留学生の金策について包み隠さず書いてみようと思うのである。いい機会だし,どこかで情報を求めている人の目にとまればお役に立てるかもしれないし。

私たち留学生のほとんどが,こちらに留学している間は何らかの奨学金を得て大学に通っている。だいたいその奨学金は授業料全額に加えて月々の生活費が給付されるといった感じで,*1奨学金によってはそれに渡航費が付いたり,果ては保険料まで出たりする(ドイツに留学する人のためのDAADとか)。ちなみに私は今,日本学生支援機構の長期派遣プログラムというもので3年間カバーされる奨学金をいただいている。大陸諸国とは少し事情が異なるが,イギリス・アイルランドに来るのであれば,年数を考えても額を考えても最善の選択であると思う。

しかし問題は,たいていの場合博士論文は3年で終わらないということである。したがって,私たちは3年が経過したところで新たな奨学金に申し込まなければならないのだが,問題はほとんどの奨学金が「これから留学を始める人」を対象にしているということである。つまり,たいていの場合,「すでに留学している人」は対象になっていないことが多い。「応募時に日本在住の者」とか,そんな感じでふるいにかけられる。それを除いていくと,残る選択肢は1つか2つくらいになる。私の場合は本庄国際奨学財団の海外留学日本人大学院生奨学金と,もうひとつはアイルランド政府奨学金の,はずだった。前者の本庄国際奨学財団はかなり厳しいことで有名で,私なんかとは比べ物にならないほどの優秀な先輩方がばっさり落ちている。それに引き換えアイルランド政府奨学金はとりあえずアイルランドへの留学だけが対象だし,結果もかなり早くわかるので,こちらに望みをかけていたのだった。しかし待てど暮らせど,大使館のHPに情報が出ない。2月下旬に大使館に問い合わせてみると,「アイルランド文科省から通達があり次第告知しますので少しお待ちください」とのことである。しかし検索しても2011年度以降の情報が出てこないことを不審に思ったので,果たして現在も毎年きちんと募集があるものなのか,続けてメールをしてみた。しかしこれが全く返ってこない。業を煮やした私はアイルランド文科省に直接問い合わせてみたのである。そこで話は冒頭に戻るのだが,空港からのバスの中で見て一気にボルドーから現実へ引き戻されたメールというのはそのお返事であった。彼らはこのページのURLを送ってきたのだが,それによると,どうもアイルランド政府奨学金は対象をブラジル,中国,インド,マレーシアからの留学生に絞っているように見える。もうメールなど待っていても仕方ないと思い,その日は夜中の1時まで待って,日本のアイルランド大使館に確認のためSkypeで電話してみたのであった。するとそこでようやく言われたのが,「実は数年前から,アイルランド政府奨学金の募集は来ておりません」というものであった。いや,だから,それならそうとすぐに答えられるようなメールを送ったじゃない(どうもメールは見落とされていたらしい)。さすがポンコツネイション,アイルランドの大使館である。期待したのがバカだった。ということでショックではあったけれども,それは諦めざるを得なかった。

しかしそうなってくると,問題はただひとつ,来年の学費と生活費を自弁しなければならないかもしれないということである。あまり知られていないようなので声高に叫ぶが,イギリスやアイルランドの大学では,我々のような「EU外」出身の学生は,本国の学生のほぼ3倍の学費を払っている。私はトリニティ・カレッジ・ダブリンに年間約130万円の学費を支払っているし,ダブリンにあるもうひとつの大学,ユニヴァーシティ・カレッジ・ダブリンの学費は年間約150万円である。ちなみにこれがロンドン大学になると,この倍になるらしい。さらにアメリカになると,もう奨学金なしでは進学さえ考えられないレベルと聞く。恐ろしい。これに対してフランスやドイツの学費はかなり安いことで有名で,たとえばボルドー在住の先輩は確か年間300ユーロ(5万円弱)だとおっしゃっていた。ドイツでも,もともとタダだった学費を200ユーロだけ徴収するようにしたらデモが起きたという話を聞いたことがある。払えよ。

そういうわけで,私には130万円なんてすぐに用意できるはずもない。生活費も含めれば200万円近くなる。先輩方も最後の1年は奨学金が切れて親御さんに頭を下げたという話をよく聞く。私も最終的にどうにもならなければそうするしかないのだが,これはもう私の矜持の問題で,それは避けたい。別に親と仲が悪いとかそういうわけではない。今回も,さすがにいつまでも隠し立てすることはできないので母に洗いざらい話すと,「お金のことは心配しなくていい」とありがたいことを言ってくれたので,だいぶ気が楽になった。しかしそれを勘案しても,私は自分でどうにかしたい。これは私個人のことについて言っているので,最後に親御さんに頭を下げた先輩方を批判するわけではまったくないのだが,だって私,もう29なんですよ。普通に就職してさえいれば,今頃もしかしたら高給をいただいて逆に親にお金を送っていてもおかしくないのに,その選択肢を自らなくして大学院に,それも海外の大学院なんかにいるのである。私の研究にはそれだけ意味があるのだと私自身は思っているが,でもだからといって,人にそれを押し付ける気はない。それに「最終的には親にお金を出してもらう」というのが当たり前になるというのは,それはこれからの留学支援においてとてもマイナスになると思う。私自身も,人からは何度も「親に出してもらえばいいじゃない」と言われて嫌な思いをした。要するにそういうことを当たり前にすると,それこそ留学は本当に恵まれた家庭で育った人にしかできないということになりかねないし,留学経験者のイメージも下がりかねない。私は誰もかれもとにかく留学させようとする今の日本の風潮には反対だが,でもやはり留学は,きちんと努力している人が望めば,適切な助成を得て自分だけの力でかなえられるものであってほしいのだ。これは留学経験者として心から思うのだが。

私にはこういう信念(もしかしたらくだらないプライドかもしれないが)があるので,やはりギリギリまで探してみよう。そう思ってこちらの指導教官に相談するとともに,日本の指導教官にも相談し,最終的には岡山県庁にまで連絡して何か助成はないかと尋ねてみた。それと並行して自分でも探した結果,うちの大学が出しているPostgraduate Research Studentshipsはどうだろうという結論になった。学費は全額免除になるし,生活費も年6500ユーロを基準に支給されるという。唯一の難点は,ティーチングが課せられることである。私は論文を仕上げる時期にあって,時間なんていくらあっても足りないのに,この上ティーチングなど無理に等しい。しかし今のところ,もう望みはこれしかなさそうな状態である。背に腹は代えられない。130万円肩代わりしてくれるなら,ティーチングだろうが皿洗いだろうが窓ふきだろうが,なんでもやりましょう。ああ,しかし,ひとつも望みがないよりはなんと心が楽なことだろう。

それにしても今回のことでは,日本の奨学金事情にまだまだ不備があるということがよくわかった。英米の大学の授業料は法外である。だいたい本国の学生・EU内の学生・EU外の学生の区別を作るなんて,そもそもそこからおかしいが,*2でもそれは一朝一夕にどうにかなるものではない。それに,博士課程が3年で終わることなんて稀である。それを考えれば,せめて奨学金によって4年まではカバーしてもらえるようにすべきだ。特に英語圏。本当に日本に資する人材を養成したいという考えなのであれば。たとえばこちらの奨学金は4年までの延長を認めるものがとても多い。問答無用で3年ですっぱり,というのはなかなか聞いたことがない。昨日も院生室仲間のスティーブン(近世史専攻で金髪碧眼のイケメン)に愚痴ったら,3年はなかなか残酷だね,と同意してくれた。ありがとうスティーブン。世界は君のものだ。

しかしこういう時,女は現金なものである。すぐさま私の脳裏をよぎったのは「結婚」という文字だった。そして「手持ちのコマ」を数える要領で,既婚の知人たちの顔……を通り越してその夫君たちのご尊顔を思い浮かべた(本当に申し訳ありません)。超のつく高給取りが何人もいらっしゃる。しかも夏に結婚式に招いてくれている友人とその婚約者は,これまた有名企業にお勤めである。これは。うまく誰か捕まえればこれは。130万なんて安いものだろう。130万ぽっちで売り飛ばすなんて私の人生も安いものだが,そうはいっても目先の130万こそが今の私には最大の心配事なのだ。そのためなら結婚でもなんでもしよう。しかしそこまで考えてはたと気づいた。どうも今の私には,結婚するよりは130万を自弁する方が楽である。はい,ふりだしに戻る。

それにしても「遊ぶ金欲しさに」という犯罪の動機はよく聞くが,「学ぶ金欲しさに」というのはないのだろうか,とこれもふと思った。私には学ぶ金欲しさに犯罪に手を染めるとかそんな気骨はないけれども,気骨ある学生ならやってもおかしくなさそうである。だから,やっぱり,奨学金制度はちゃんと整備してください。未来ある若者が一人でも多く海外へ飛び立てるように。そして未来ある若者が,その未来を棒に振るようなことがないように。

*1:貸与式はあまり聞いたことがない。

*2:人種差別とかそういうことではなく,留学生大歓迎というような顔をしてEU外の学生から一番儲けているくせに,その当人が一番損をするというのは納得できない。