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でかける人を,ほほえむ人へ

ベビーカーを持って電車に乗るな,乗るならベビーカーをたため,というアホみたいな意見が日本で堂々と「主張」されているのはこちらでも知っていた。海外経験のある人が,何かというとすぐに「向こうでは~」とか「こちらでは~」とか,自身の「グローバルな視野」をひけらかして日本を見下す言い方はまことに好きではないのだけど,今回ばかりは言わなければなるまい。断言するが,こちらでは,ベビーカーを押したお母さんが電車に乗ったらベビーカーをたためだなんて,そんなの聞いたことがない。そんなこと言ったら,なんだこいつ気でも狂ったかと思われるのが落ちだろう。ベビーカーを押したお母さんが乗ってきたとしたら,たとえそれがどんなに満員の電車であったとしても,みんな進んで場所を空ける。それが普通だと思っていたし,今も思っている。

さて,この前帰国したとき西武線に乗っていて,その中でアナウンスを聞いたのだった。一言一句覚えているわけではないのだけど,なんとかキャンペーンと題したそのアナウンスは,まず「ベビーカーを持ったお客様は」「周りのお客様に」「ご配慮をお願いします」と言っていた。耳を疑った。「ご配慮」すべきは「周りのお客様」だろう。「ベビーカーを持ったお客様」ではなくて。そしてアナウンスはこう続いた。「ベビーカーをたたむ必要がある際には,周りのお客様がお手伝いくださいますよう……」。これか。音に聞く「ベビーカー持って乗るな」「ベビーカーたため」圧力とは。このアナウンスを聞いた時の不快感たるや筆舌に尽くしがたく,さらにその不快感が一向に消えないことに気づいたので,思い立って西武鉄道にフォームから意見を述べたのだった。「配慮」とは,具体的にどういうことを指すのかと。すると今日,以下のようにお返事があった。

電車内でのベビーカーのご利用につきましては、以前は、折りたたんでいただくようポスターおよび口頭にてお願いしておりましたが、現在はベビーカーを利用されるお客さまの責任において、他のお客さまのご迷惑にならない範囲でご使用いただくようお願いしております。なお、この度賜りましたご意見は担当部署に申し伝え、貴重なご意見として承るとともに、西武鉄道を快適にご利用いただけるよう鋭意努力してまいりますので、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。

西武グループでは「でかける人を、ほほえむ人へ。」のスローガンのもと、今後ともお客さまに喜ばれる鉄道を目指してまいります。
今後とも何かお気づきのことがございましたら、お知らせいただければ、幸甚に存じます。

 「でかける人を,ほほえむ人へ」ねぇ。なんというか,ふうん,という印象。まず,やっぱり以前は「折りたたんでいただくようお願いしていた」とのことで。そして現在は「お客様の責任において」「ご迷惑にならない範囲で」使えとか。「責任」とか「迷惑」とか,これも嫌な言い方を敢えてしますけど,きわめて日本らしい

ベビーカーを持った乗客が恐縮しなければならない時点で,御社のスローガンに反しているでしょうが。

ごめんなさいまし,最後がテンプレートになっているばかりに揚げ足とっちゃったわ。しかしですね,見ればわかることだと思うのだけど,ベビーカーを持ったお母さんは何もベビーカーだけを持っているわけではないのです。大荷物を抱えて,しかもベビーカーにもお子さんだけではなく他の荷物も乗せている。それを乗り降りのたびにたたませるなんて,鬼ですか。程度は違えど,たとえば車いすの乗客にも,電車に乗ったら「ほかのお客様の迷惑にならないように車いすをたため」と言うのか。そこまでして他の乗客の機嫌を取らなければならないのか。だったら文句を言う乗客をすべて強制降車させてしまえばいい。その方がよほど好感が持てる。いや,本当にもう,これが少子化対策をしている国の有り様なのかと,また5年後に首都でオリンピック開催を控えた国の有り様なのかと思うと情けなくて仕方がない。たとえばベビーカーを持った外国人観光客がいたとして,もしそんなアナウンスを聞いたりしたら,日本の誇る「お・も・て・な・し」をどう感じますかね。ちなみに,こちらでは双子用のベビーカーをよく見ますよ。文字通り双子用だから,押して歩いているだけで歩道の幅を占領するくらいには大きいけど,もちろん誰も何も言いませんよ。だけど日本ではもう,そんなベビーカーを持った人は,電車に乗ろうなんてことはおろか,外に出ようと考えること自体が許されないですね。

しかしまあ,やりとりの中でこちらの思うこと(主に上記の件を,もちろんもっと丁寧な言い方で)は伝えたし,「今後とも西武線は定期的に利用させていただく予定ですので,改善されるのを楽しみにしております」とお伝えしておいた。まあ,「留学とか言って海外で遊んでいる暇なフェミの学生」とでも思われたのかもしれないけど,それならそれで別にいい。皮肉ではなく,本当に期待しております。期待を込めて,こちらに公開させていただいた次第です。