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いわちはいわちに生まれるのではない,いわちになるのだ:Mr. King VS Mr. Prince結成発表に寄せて

いきなり不遜なことを言うが,私は男性に対して,狭義の強さなど求めていない。10代の頃はスポーツで目立つとか,不良ぶるとか,そういうタイプの男性にまったく興味がなかった(し,今ももちろん興味がない)。マスキュリニティ(「男らしさ」ではなくて)など,むしろないほうがいいと思っている。そんなもの,あればあるほど男が勘違いするだけである。「男らしい」と思って好きになった男性が,実はただの「女は家庭に入るべき」的な考えを持つ家父長馬鹿野郎だったときの落胆は筆舌に尽くしがたいが,一見頼りなく見えた男性が実はそうではなかったとしたら,そちらのほうがよほどうれしい。ヘタレポンコツが好きなのは,そういう理由からかもしれない。残念ながら,ヘタレポンコツに見えてヘタレポンコツである,という例がとても多いのが困りものではあるのだが。

さて,ジャニーズJr.に岩橋玄樹くんという男の子がいる。彼は見た目が女の子のように可愛らしい。少なくとも女の私よりフェミニンな可愛さがある。そしてその可愛い外見の通り,行動も女の子っぽい。悪く言えば,なよなよしている。唇の乾燥を気にしてリップクリームを塗り,女装を「楽しい」と言い,シンメの神宮寺勇太くんに恋人のようにしなだれかかり,中性的な「いわち」というニックネームで呼ばれる彼は人気も高いが,その反面で,上記のようなわかりやすい「男らしさ」を求める女性たちからは苦手と見られてもいるようである。私も彼に対して,異性として興味がある,というようなわけではない(そもそも10歳以上離れているから「異性としての興味」とかいうこと自体が許されないのだが)。そして男らしい男も苦手だが,中性的な男性もそれほど好きではない。しかし,岩橋くんに対しては別である。

初めて彼を「認識」したのはジャニーズJr.の冠番組,『ガムシャラ!』で彼を初めて見た時だったと思う。それこそリップクリームを塗ったり,髪の乱れを気にしてドライヤーをかけたりする姿がクローズアップされた回で,私は呆れこそしなかったものの,なんだこいつ,と半分面白く見たのであった。それからしばらくして,さかのぼる形で2011年に放送された『ジャニーズJr.の真実』という特別番組を見た。その番組で,公演の空き時間に共同の楽屋でひとり,漢字ドリルを広げて勉強する岩橋くんが映っていた。当時岩橋くんは,確か高校に入ったばかりだったように記憶している。インタビューを受けた岩橋くんは淡々と,中学時代に同級生からからかわれてあまり学校に行けなかったこと,だから高校では「ちゃんとしなきゃ」と思っていること,その先は大学にも行きたいこと,を話していた。特に「大学に行きたくて勉強しているんです」とはっきり言ったのが印象的だった。15歳の,入学したばかりの高校生が,すでに3年先を見据えている。中学時代に不登校気味だったのなら,高校に入って環境も変わったのだから遊びたい放題遊ぼうと思ってもおかしくないはずなのに。しかも彼の場合はジャニーズJr.なのだから,進学「しない」という選択も大いにありうるはずなのである。おそらく取材していた側も,そこで岩橋くんに目をつけたのだろう。それから岩橋くんは,ちょくちょくカメラに追われた。番組を見終わる頃には,私の岩橋くんに対する印象はかなり変わっていた。そして今年,岩橋くんは大学に入学した。プライバシーを鑑みてのことだと思うが,受験や進学のことをはっきり公言するジャニーズタレントは割と少ない。しかし岩橋くんは,「大学に行きたい」といろいろなところで言い続けてきた。有言実行の形で夢がかなうのを見るのは非常に清々しいものだ。芸能人の大学なんて,どうせ「一芸」かバカ大学だろ,と憎まれ口を言うのは簡単である。しかし,芸能活動と学業を並行させるだけでも並大抵のことではないだろうに,そのうえ進学を,しかも「なんとなく」ではなく実現させるというのは,本当に感服する。意志の強い彼だからできたことだと思う。念願の大学で,彼は今,英語とフランス語と中国語を履修して忙しくしているらしい。ただ単位をそろえるだけでなく,語学に力を入れているというのも,とても彼らしい。

そして今日,新ユニット「Mr. King VS Mr. Prince」が結成され,彼がその一員であるという報がもたらされた。彼を含め,このメンバーは現在ジャニーズJr.の中でも屈指の動員力を持つ面々であり,特にサプライズ人事はない。しかし岩橋くんはここにいたるまで,きっとかなりの努力をしてきたことだろうと思う。幸いにして,容姿には恵まれている。しかしジャニーズなのだから,容姿に恵まれていることはある意味において当然であって,それに加えてなにか光るものがなければ頭一つ抜けることはできない。現に,シンメの神宮寺くんと比べられて悔しい思いもしたらしい。劣等感も持っていたらしい。*1それをここまでこぎつけたというのは,それこそ彼の意志の強さの賜物だっただろうと思う。初志貫徹の意志があること,逆境の中でも自分のすべきことを見つけて行動に移すこと,まずは置かれた環境や自分の現状を受け入れること,岩橋くんの価値はこういうところにこそあるのだと思う。男としての価値以上に,人間としての価値が。そしてそれは表面的な「男らしさ」なんかよりも,ずっと大切な資質だと思う。セクシーに踊り猛々しく観客を煽るから「男らしい」のではない。リップクリームを塗って髪を気にするから「女々しい」のではない。そもそも「男らしさ」「女らしさ」など,ボーヴォワールが喝破した通り,恣意的に作られた指標に過ぎない。岩橋くんはそのことを体現する存在でもある。大学とユニットは,岩橋くんが自分の努力と工夫で勝ち取ってきた舞台である。そこで彼が一層輝くことを願ってやまない。

ところで「Mr. King VS Mr. Prince」なのですが,まぁ,ネーミングセンスがぶっ飛んでいるのはもう驚くことでもないとして,KingとPrinceが戦うというのはこれ,もしかして,もしかしてギリシャ神話のオイディプスですか。さっきシャワー浴びながらふと思いついて度し難く興奮しているのですけれども。違いますか。そうですか。あと「Mr.」がつくことによってますます解釈が難しくなっているのですが,まさかベン・E・キングとプリンスが歌合戦するわけでもないだろうし。そして「キンプリ」という略称はなんとなく語感がよろしくない気がする。そういうわけで悶々としているが,まぁ私の場合,これはジャニーズ新ユニットが現れた時,もしくはデビューしたときの「お決まり」であるようだ。*2なので,祝辞とでも受け取っていただければ幸いです。改めて,おめでとうございます。ところで今日のタイトルは,シモーヌ・ド・ボーヴォワールの『第二の性』の有名すぎる一節,「人は女に生まれるのではない,女になるのだ」から取っています。「性差(ジェンダー)」は社会的・文化的に構築されたものであり所与のものではない(要するに私が上で述べたような,「男らしさ」「女らしさ」など恣意的な創作だ,ということです)ということを論じたジェンダー論の古典。岩橋くんファンの方,もしまだお読みでなかったら,この機会にぜひお読みください。

決定版 第二の性〈2〉体験(上) (新潮文庫)

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*1:こちらを参照。ちなみにこちらの記事は,今日の日記を書く原動力でもあります。

rurararura-28.hatenablog.com

*2:たとえばこちら。2007年にキスマイに言及したときのもの。

mephistopheles.hatenablog.com