読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

いつまでもあると思うな親とAmazon

 

The Irish Book in English: 1550-1800 (History of the Irish Book)

The Irish Book in English: 1550-1800 (History of the Irish Book)

 

 アイルランドの読書史を専門にしている私のような人間にとって,このOxford History of the Irish Bookシリーズはもはや必携である。この本に関して,これまで私は学校の図書館の蔵書やそのコピーでなんとか凌いできたが,そろそろ帰国後のことを考えなければならない頃になってきた。採用されれば日本のどこへでも喜んで赴任しなければならない若手研究者の身の上で,勤務先の大学にそうそう都合よくこの本を含めた必要文献があるとも思われないし,勤務先の大学の図書館が使えるかどうかすら定かでない。そもそも勤務先の大学が見つからない場合も,考えたくはないが考えられる。そういうわけでやはり,絶対に使うとわかっている文献は手元に置いておくに限る。このシリーズは1冊が2万円近く(!!)するのだが,この際仕方ない。3年間うじうじと悩み続けてきたが,ついに重い腰を上げたのであった。

しかし,そうは言っても2万円の本をおいそれと定価で買う気はなかなか起こらない。しかも運の悪いことに,私が研究しているのは19~20世紀転換期なのだが,シリーズは第4巻が1800~1890年,第5巻が1890年~,という分け方になっているのである。つまり私は2冊そろえなければならず,そうなると4万円。眩暈と立ちくらみと耳鳴りがするのは気のせいではない。とにかく,安い中古のものを探さなければならない。幸いまだ新しい部類の本だから,中古でどうこうなるものでもない。そう思ってAmazon.ukのマーケットプレイスを見ると,おお,見つけた。第4巻と第5巻,どちらも6割引きである。それでもなお1冊8000~9000円するのだから狂った世界であるが,ともかく,2冊で4万円よりはよほど良い。そういうわけで,買うことにした。

しかし,アイルランドなんかでアイルランドの読書史を専攻している私のような人間にとって,まだ油断することはできないのである。これらの本は前述の通り,帰国後の蔵書として買おうと思っていたので,送り先に日本の実家の住所を選択した。すると案の定,2冊のうち1冊の出品者は「ご指定の住所には送付できません」という。アホみたいに分厚く重い本なのでどうしても日本に送りたいのだが,仕方ない,アイルランドになら,もしかしたら送ってくれるかもしれない。そう思ってダブリンの住所を選択してみた。しかしまだ,「ご指定の住所には送付できません」と出る。日本にもアイルランドにも送れない。つまりイギリス国内にしか送れないということなのだろう。しかし,次に安いものとなると値段がこの2倍近くにもなる。普段ならあきらめるが,どうしてもあきらめたくない値段であった。逡巡した結果,ロンドンにお住まいの先輩に連絡し,先輩の住所を使わせていただいたのちに,先輩から日本の実家へ送っていただく手配をした。

どうしてこういうことになるのか。どうしてこのような目に遭わねばならないのか。それはひとえに,アイルランドAmazonがないからである。Amazon.ieがあれば,このような苦汁を舐めることなく,鼻歌でも歌いながら注文し,そして翌日には(たいていの場合送料無料で)受け取れていたことであろう。我々のようにアイルランドに住む人間にとって,「最寄り」のAmazonAmazon.ukだから,何かあったらそこに頼むことが多い。しかしそうなると最後,やたらと高い送料を取られるうえ,届くまでに10日かかったりする。こちらに来てすぐスティックタイプの掃除機を買った時など,本体の代金と同じくらいの送料を取られた。前にも書いた通りアイルランドの人々は非常に読書家なのに,Amazonがあったらいいのに,とか思わないのだろうか。そう考えてみれば,不思議なことに,こちらに3年住んでいて,「Amazonがあればいいのに」という声を聞いたことがない。初めからなければ,そういうものであるらしい。

そういえば,ジャニーズファンの間でAmazonはそこまで評価が高くないように思う。その不満の原因は,新曲が発表されたとき,予約していても発売日より先に入手できることが少ないからであることが多い。Twitterなど見ていると,「Amazonフラゲさせてくれなかったー」などという声をよく見かける。しかし,この際言わせていただきますが,

何がフラゲだこのクラゲ女ども!

みなさま,クラゲ女などと罵倒されたのが悔しければ,もう一度Amazonのありがたみをよく考えてみるといい。誰が,安くしたものを,しかも翌日,たいていの場合は送料無料で,家に届けてくれますか。あれはまことに,物流革命だぞ。なくなって初めてありがたみに気づくとはこのことだぞ。本当に,こんなになくなって初めてそのありがたみに気づくものなんて,肉親とAmazonくらいだぞ。しかもマーケットプレイスが使える。定価の新品を買うのならまだしも,中古品を買うときなど,検索してそれを比べられるというのは,本当に画期的なことなのだ。そのへんをよくよく噛みしめてみるといい。私は今,『もののけ姫』の冒頭で,アシタカの村を襲ったタタリ神にも匹敵する無念さと恨めしさでこれを書いている。汚らわしいジャニオタどもよ,我が苦しみと憎しみを知るがいい。*1

さて,クラゲ女だの汚らわしいだの,散々罵詈雑言を尽くしてきたことをここにお詫びしつつ,唯一の救いは,私の母国にはAmazonがあるということである。洋書の取り扱いが少ないのは改善してほしい点のひとつであるが,改善していただいたところでアイルランド史の専門文献の品ぞろえがよくなるとも思わない。だから,もういいです。そちらはこれまで通り自分でどうにかしますので,今まで通りのサービスをよろしくお願いいたします。いつもお世話になっております。

*1:よく聞かれることですが,私はジャニーズのCDやDVDなどは,高額な送料をかけてこちらに送るなど考えてもみないので,全て実家に手配しております。そのために発売から半年経ってようやく手にすることも少なくない。