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「読書と人々」シリーズその4:日本のOPAC,使いにくくないですか?

故郷の玉野市では市立図書館を移転させる予定があるらしい,ということを母から聞いたのが帰国の直前だった。現在の市立図書館は総合文化センターという施設の中にあるのだが,この文化センター自体が築40年と老朽化しているうえ,図書館は3階に位置し,おまけにエレベーターがないという条件の悪さであり,移転も即座にうなずけるものであった。肝心の移転先は,メルカという商業施設の2階部分になるらしい。このメルカもオープンから20年が経ち,2階のテナントは多くが撤退してしまったという事情がある。そこへ図書館の移転計画が持ち上がり,メルカを所有する会社がその2階の大部分を無償で(!)提供する形で話がまとまったらしい。新国立競技場計画と違い,すでにあるものを利用する形で,文化施設を再生し,市中心の再開発の目玉にするというのは,特に地方都市の市政を考える上で,文化的にも財政的にも非常に好ましい計画であるように思えた。さらに今回の移転にあたって,指定管理者制度も導入することになったらしい。こうしたことを聞くと図書館史をやっている人間としてはいよいよ居ても立ってもいられず,玉野市役所の職員である高校時代の同級生に連絡を取り,担当者の方にお話を伺えないかと聞いたのだが,するとちょうど私の帰国中に市民を対象としたワークショップが開かれるという。ワークショップは全3回の予定で,残りの2回には参加できない私は本来であれば応募資格がないはずなのだが,頼み込んで参加させていただいた。それが7/30のことであった。

それで,せっかく参加させていただいたのだから何か形になるものを残そうと,とあるメールマガジンにそのワークショップの参加記を含めた記事を書かせていただくことになった。とはいえ私は19世紀後半の英語圏の図書館については専門家であっても,現代の図書館行政については完全な素人である。そういうわけで,現在四苦八苦しながらその原稿を書いている。以上が今日の日記に対する,長すぎる前置きである。

今回の移転に関しては反対意見も多いらしいのだが,その理由のひとつに司書をはじめとするスタッフの削減があるということであった。ただ,そもそも指定管理者制度の導入というのが実質の民営化である以上,スタッフの削減をはじめとする人事の効率化はやむを得ない面もあるだろうと思われる。そのあたりはもう機械の導入によってコストを削減していくしかないところもあり,実際に自動貸出機・返却機をはじめとした設備は増量されるらしい。ただ,日本ではあまり知られていない司書の大切な役割として,レファレンスサービスというものがあり,*1これまで機械化することはなかなか難しい。さらに,最近大きな図書館や書店にはよく「ブックコンシェルジュ」というサービスが設けられていて,つまりこれは「コンシェルジュ」役のスタッフが利用者/客の好みに応じて本を紹介するものなのだが,*2これも対面でないと難しいところがあるだろう。しかしスタッフの削減は決定事項である。できうる限り機械化したうえで,司書から対人で受けるレベルに準ずるサービスを保障するにはどうすればよいのか,勝手にいろいろ考えていてふと浮かんだことが,OPACの改善であった。

OPACの構築者には直接存じ上げている方もいるのであまり大きい声では言えないが,正直に言って,日本のOPACはすこぶる使い勝手が悪いものが多い(大声で言っちゃったわよ)キーワード検索もできるにはできるが,漠然としたキーワードでの検索を決して許してくれない。OPACはその名の示す通り一義的にはカタログであって,ほぼ正確な書誌情報がわかっていないと使いにくいという側面がある。さらに,それに関連する本を探そうとしたら,また新しく情報を仕入れてこなければならない。ところが現在在籍しているトリニティ・カレッジ・ダブリンの図書館の検索システムや,あるいは欧米のほかの図書館や文書館の検索システムをとってみても,こんなに使いづらいものは見たことがない。むしろ私はこちらでは,アホみたいな検索ばかりしているが,それによってきちんと目当ての本はヒットするうえ,知らなかった文献まで偶然にヒットしてそれを読むことも多々ある。もちろんそれによって思いがけない収穫が得られたりすることも多々である。なので,OPACは必ずこうなるというわけでもないようである。

具体的な改善策として,たとえばインターネット検索エンジンよろしく,OPACでもあいまいな検索をした際には「もしかして○○」とか,そういうサジェスチョンのようなものを出すわけにはいかないのだろうか。さらに言えば,前述のブックコンシェルジュサービスの電子版として考えられるのが,Amazon等で見られるような「あなたへのおすすめ」だったり「この本を買った人はこんな本も買っています」だったりするようなレコメンデーション機能ではないだろうか。これが図書館OPACでも利用できれば,こんなに使いやすいことはないし,未知の本との出会いも広がるのではないか。そうなれば図書館の存在意義はもっと大きなものとなるのではないか。これ,もしかして名案ではないかしら!?

と思いつつも,実現可能性があり,さらにコストが現実的でない限り,名案とは呼べないわけである。もしこれが本当に名案なのであれば,上述の原稿に盛り込んでみよう。そう思って,職業柄このあたりのことにお詳しい後輩のひとりに尋ねてみた。彼から返ってきた答えは,技術的には可能だが,実現しようとすると数百万~数千万単位のコストがかかるだろう,ということだった。名案ではなかったらしい。がっかり。

というわけで,何バカなこと言ってんだ,いくらかかると思ってんだこの素人が,とバカにされるのが怖いので,原稿に盛り込むかどうかは保留にしておいても,しかしこの案自体は捨てきれないため,ここにとりあえず書いておこうと思った次第である。そもそもサジェスチョンやレコメンデーションが,おそらくは宣伝目的でなされるのである以上,図書館の蔵書目録のような性質のものとは馴染まないのかもしれない。しかし理想論として,あったらどんなに便利だろうと思う。それに数百万~数千万というのは(玉野市のような)ひとつの地方自治体には無理な額であっても,もしかして県内でOPACを一元化するようなことができるのであれば(イメージ的にはWebcatとかああいう感じで),無理な額でもないのではないか。いや,まあ,「無理な額でもない」なんてそんな森喜朗氏のようなこと,私が言うことでもないのだけど。*3OPAC構築に携わっている方,もしくは広くIT関連の方,万が一この日記をご覧になりましたら,ちょっとだけ考えていただけるとうれしいです。アイルランドより愛を込めて。

追記

ブックマークなどからコメントをくださったみなさま,ありがとうございます。OPAC改善について,「どのレベルで」ということを明記していなかったかと思いますので ,こちらに書いておきます。

まず,あいまい検索についてはカーリルで可能だというご意見を数件いただきました。もちろん「あいまい検索」なる機能はありますが,それでも使いやすいとは言えないと私は考えています。*4また,これらの機能を高齢者も含む全利用者が使いこなせるかというと甚だ疑問です。私が最終的にこうなればいいと考えているのは,インターネット検索エンジンのレベルです。海外ではすでに,ほぼ近い精度まで達成されていると思います。

あと,レコメンデーションについて,少数ではあるが導入例があるとのコメントも拝見しました。これは存じ上げませんでしたが,素晴らしいことだと思います。公立図書館にも普及することを願ってやみません。

*1:これがあまり知られていないの,本当に本当にもったいない。漠然としたことを伝えるのでも,司書さんはきちんと調べてくれるのです。レファレンスサービスがどのようなものか知るためにはこちらのtwitterアカウントがおすすめです。私もフォローさせていただいてます。

twitter.com

*2:以前に書いたがBook Doctorというのも,こういうサービスのひとつだと思う。

*3:なぜ今日は新国立競技場関連の連想が多いのか,私にもわかりません。

*4:たとえば私は今回の帰国中,OPACを使ってエドマンド・バークフランス革命省察』を検索しようとしましたが,たとえばキーワード検索,あいまい検索を使って「バーク 省察」などのキーワードを用いて(この本の原題はReflections on the Revolution in Franceなのですが,フランス革命省察」のほかに「フランス革命についての省察」など,訳し方がいろいろあるので)検索してもなかなかヒットしませんでした。