読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

「読書と人々」シリーズその6:旅先読書

昨日感想を書いたSightseeingAmazonで調べた時,「この商品を買った人はこんな商品も買っています」につられてまんまと購入したもの。

Reading on Location: Great Books Set in Top Travel Destinations

Reading on Location: Great Books Set in Top Travel Destinations

 

 しかし昨日書いた通り私は本屋に発注したので(だってAmazonで買うと送料がバカバカしいんですもの),Amazonで調べ,レコメンデーションに引っかかりつつ,しかしAmazonでは買わなかったということになる。なかなか小気味よい。

おそらくAmazonの小人たちは,私が"sightseeing"などというキーワードで検索するから,旅行ガイドを探しているのだと察したのだろう。それ自体は間違いだったのだが,この本を勧めてくるとはとてもよいセンス。サブタイトルに"Great books set in top travel destinations"とある通り,旅行中の楽しみとして「訪ねている場所を舞台にした物語を読む(reading a book set in a particular city or region, while you're actually visiting it)」ことを勧めるおもしろいガイドブックである。

このガイドブック,世界各国がくまなく網羅されていてすごい。もちろんというかなんというか,一番多くの紙幅を割いて紹介されているのはアメリカ合衆国で,1つの国に30頁が割かれている。ちなみに日本に関しては,

  1. Ryunosuke Akutagawa, Rashomon and Seventeen Other Stories (2002)
  2. James Clavell, Shogun (1975)
  3. Arthur Golden, Memoirs of a Geisha (1999)
  4. Seicho Matsumoto, Inspector Imanishi Investigates (1989)
  5. Soseki Natsume, I Am a Cat (2002)
  6. Susanna Jones, The Earthquake Bird (2001)
  7. Natsuo Kirino, Out (1997)
  8. Haruki Murakami, Norweigian Wood (1987)
  9. Ryu Murakami, In the Miso Soup (1997)
  10. David Peace, Tokyo Year Zero (2007)
  11. Yunichiro[sic] Tanizaki, Some Prefer Nettles (1929)
  12. Banana Yoshimoto, Kitchen (1988)
  13. Haruki Murakami, Underground: The Tokyo Gas Attack and the Japanese Psyche (1997)
  14. Yukio Mishima, The Sailor who Fell From Grace with the Sea (1900)
  15. Kenzaburo Oe, Nip the Buds, Shoot the Kids (1958)
  16. John Hersey, Hiroshima (1946; updated 1989)

 こんな感じである。まあどうせ村上春樹ばっかりだろうなと舐めてかかっていたが,村上春樹はきっちり最小限におさめてあり,しかも1冊をノンフィクションの『アンダーグラウンド』にするところなど,行き届いた印象を受ける。個人的に唸った選書は松本清張桐野夏生。あと欲を言うなら 『メモワールズ・オブ・ゲイシャ』より三島由紀夫金閣寺』の方がずっといいだろうという気もする。紹介文もなかなか気がきいていて,たとえば大江健三郎ウィリアム・ゴールディングに準えられていたりした。つまり,日本のこの例をご覧になればおわかりかと思うが,訪れたことがあったり住んだりした土地などに関していえば,リストを見てその本に興味を持つだけでなく,「ほほう,そうくるか」と選書を楽しむこともできるし,また「私ならこの本入れるけどなあ」と「自分なら何を勧めたいか」で考えることもできる。あと,アイルランドに関しては割とあっさりまとめられていて,しかもジェイムズ・ジョイスがリストアップされていないようだったので,おいおいそれを抜かしたらだめだろう,と思っていたらしっかり"Joyce's Dublin"というコラムが組まれていた。侮りがたし。

ただ,国や地域によってムラがあるのは否めない感もある。たとえばフィンランドは,適当にやったというわけではないのだろうが,最初に得意げに『カレワラ』(1835年)を出してきており,思わず笑った。そりゃそうだろう,というか,それは禁じ手だろう。そういう「おいおい」感も含めて,読んでいるだけで面白い。さらに,本の紹介だけでなく,アイコンの形で"film"(その本が原作になった映画),"television","radio","also of interest (tours, museums, author houses, etc)", "see also (reference to a book or to a feature box)","hotel","travel","website"の情報が付記されているため,きちんと旅行ガイドとしても機能するようになっている。

"literary tourism"というのは18世紀頃からはじまった読書行動のひとつで,物語(特に古典)の舞台となった場所を訪ねる,今でいうアニメの「聖地巡礼」のようなものである。古くは貴族階級の子弟が行ったグランド・ツアーもそれにあたるが,そんなに大がかりなものでなくても,特に近現代以降,公共交通機関が発達してからは「郊外に日帰りで足を延ばす」程度のものがミドルクラス市民にも楽しまれるようになった。そう考えると今は,飛行機のおかげで3~4日もあれば海外にも行ける時代である。こういう旅行の仕方,もっと楽しまれてもいいような気もする。旅先で読書するスタイル,とにかく観光地を回ったり買い物したり忙しく過ごしたい日本人(私もそのひとりである)には今のところ合わないかもしれないが,たとえば"while you're reading it"でなくても,その地を舞台にした本を読んでから行ってみたりすれば,また違う発見があるかもしれないし,逆に帰ってから読んだりしても,光景がリアルによみがえる経験ができていいだろう。理想的にはこの本が勧めるように,旅先で読書を楽しむことができれば贅沢な経験だろうが,時間にも心にも余裕がないとなかなか難しい。でもやってみたいものだ。

ところで私はこの前帰国した時,家族旅行で岡山県北の湯郷温泉に出かけたのだが,そこで読もうと思って「日本の文学」全集から内田百閒を選んで持参したのだった。もちろん,百閒が岡山出身の作家だから選んだのである。*1しかし宿に着き,ひぐらしの鳴き声を聞きながら本を開いた瞬間,私は自分のミスチョイスを悟った。そこに収められていたのは「東京物語」だったからだ。

*1:百閒が,私が勝手に敵視している岡山朝日高等学校の出身であることはここでは棚上げにしておく。