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続・安保法案可決に寄せて

昨日あたりから,Facebookを開いたら人々が我先にと安保法案に関する見解を述べていた。ついこの間までは私も同じようにFacebookに書いていたのだが,結局Facebookでの発言というのは「同じような見解」の人々から賛同を得て満足する一過性のものに過ぎず,虚無感を覚えたので今回は何も書かなかった。ただ私も,考えたことはもちろんあるので,こちらに書いておこうと思ったのである。

安保法案関係の議論に対する私の今の考えを最初に述べると,当初に比べてあまり興味はなくなってしまったというのが非常に正直なところである。私はこの法案に対して,前にも述べた通り反対の立場であり,それは今も変わらない。しかし議論に関連するもろもろの出来事を見ていて,反対派の人々に対してもまた失望してしまった。決定的な出来事は,SEALDsのメンバーのひとりが国会前で行ったスピーチに関して,1人の研究者がジェンダー的な見地から異議を唱えた時,SEALDsの「取り巻き」の方々がそろってその方を袋叩きにするという顛末を目撃したことであった。*1法案に賛成だろうと反対だろうと,自らに寄せられた「批判」を真摯に受け止めず,すぐに「攻撃」されたとみなして徒党を組んで過敏に反応する(そしてその手段を選ばない)点においては,どちらも大差ないと悟った。*2「市民の政治意識が高まったのはいいことだ」などと,まるで試合に負けた後のようなさわやかな振り返りがなされてはいるが,私はむしろ,日本の言論空間の稚拙さに失望している。

「数の論理」を考えれば,おそらく最初から「負け戦」であっただろうこの議論に対して,この上私が言いたいことはない(し,すでにいろいろ書いた)。ところで,いきなり話は変わるようだが,私はあと1年で博士課程を修了する身であり,それが終わったら教職に就くことを希望している。将来的に大学の教職を志望しているが,できれば高校の非常勤もやってみたい。こうした希望が叶うとしたら,一番学生に伝えたいことは何か。安保法案のニュースを受けて,今回真っ先に考えたことはそれだった。

先述した通り,私個人は反対の立場である。かといって,学生も同じ政治的見解を持つよう誘導しようなどとは,誓って少しも思っていない。ただ,政治的な事柄に関しても何にしても,私が教える学生たちにはぜひ,しっかり自分で考えられる人間になってもらいたい(その結果,私と違う見解になることは全く構わないどころか歓迎したい)。人の意見や時代の趨勢に流されるのではなくて,自分はどう考えるかということを大事にできる人間になってもらいたい。自分の考えがまとまらないときに人の考えを参照するのはもちろんいいが,たとえば偉い人がこう言うからとか,そのように安易に惑わされないようになってほしい。またその時,できるだけ幅広い立場の人々の考えに目を通すような慎重さも持っておいてほしい。つまり,ハンナ・アーレントの言葉を借りれば,「思考停止」に陥らない人間であってほしい。最初から無関心であったり,難しそうだからと考えることを放棄してしまったり,そういうことはしてほしくない。私が教職に就いたら,ぜひ学生にはそれを伝えたいと思う。

大げさに言っておいて,なんだ当たり前のことじゃないかと思われるかもしれない。しかし,特にこれからの時代,必要とされる能力というのはそれなのではなかろうかというのが,安保法案関連のあれこれを受けて考えたことである。とりわけ同調圧力の強い日本社会において,自分の意見をしっかり持つということは,簡単そうに見えて非常に難しい。以下は私の推測だが,安保法案に関していえば,「集団的自衛権」はきっと今後,アメリカの求めを受けてじわじわと拡大解釈されていくだろう。そしておそらく,それは今回と同じく美辞麗句に彩られて正当化されていくことだろう。しかし問題は,その時まだ国民の関心がこのことに集まっているか定かでないということである。そして安保法案や政治的な事柄に限らずとも,こうしたことは今後いくらでもあるだろう。そういう時,私の教える学生たちには,きちんと自分で考える力を持っておいてほしい。そしてそのために,学問に限らずいろいろなものに触れてほしいと思う(極論を言えば,そのためなら私の授業をいくら欠席しても構わないとすら思っている)。授業をやりつつ,全然授業内容と関係ない本を読んだり映画を見たりする会も開きたいというのが私の夢なのだが,そのひとつの理由はそこにある。とにかく,目の前のことから逃げずに自分の頭できちんと物事を考え,独善的でない見解を持つことのできる人間を,それをきちんと表明できる人間を,自分と異なる意見にヒステリックに反駁するのではなくきちんと冷静に議論できる人間を,そして自分の誤りはきちんと認めることのできる人間を,私は育てられるよう努力したいと思っている。

戦争の日本近現代史 (講談社現代新書)

戦争の日本近現代史 (講談社現代新書)

 

 まだ読んでいる途中だが,この前帰国した時に買った。おそらく今年TAをやるだろうから,その授業の進め方の参考にと思ったのだが,近現代の日本が「どのような理屈で」戦争へと進んでいったのかというところに焦点が当てられていて,とても面白い。集団的自衛権の問題に関してはいくつか本を読んだが,むしろこの本1冊で事足りたのではないかと思うくらいである。

*1:またこのことに関して,当該SEALDsメンバーの方や,もしくはほかのメンバーの方が何も発言なさらなかったことについても本当にがっかりした。

*2:件のSEALDsメンバーのスピーチにしてもそうだが,知らず知らずのうちに批判している対象と同じ論法や技法に陥るのは,日本では特によく見られる失敗である。