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『RENT』を見て一番に思った。「家賃払おうよ」

もうこのタイトルだけで全てを物語っている気がする(ので,気分を害されそうな方はここでお読みになるのをおやめになったほうがよいかと思います)のだが,昨日『RENT』を見た。

RENT/レント [DVD]

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 イディナ・メンゼルの大ファンである同居人から借りて,初めてこの名作ミュージカル(の映画版)を見たのだが……やはり私に80年代カルチャーは性に合わないようだった。80年代の音楽は邦楽(後述する通り尾崎を除く)も洋楽もとても好きなのに,不思議な話である。

私は元来,割と保守的な人間なのである。秩序と規律を愛している。たとえば私は,この日記にもちょくちょく書いているが,尾崎豊的な世界観がまったく理解できない。校庭はおろか教室でも爆竹が鳴るような中学校で優等生をやっていた経験があるからかもしれないが,要するに「不良」が嫌いなのだ。授業中に騒いで同級生や教師から白い眼で見られることによっていわゆる「承認欲求」を満たすような連中が,私は嫌いなのである。甘ったれるのもいい加減にしてくれと思う。そして私は,大好きなミュージカル『エリザベート』では悪役である皇太后ゾフィーに感情移入するタイプである。むしろこのミュージカルにおいて主役であるシシィことエリザベートは大嫌いで,こんな甘ったれた小娘がのこのこ嫁いできて,案の定規律を拒否し「私は私だけのもの」などと抜かしたせいでハプスブルク家の全員が振り回され,挙げ句の果てに破滅したかと思うと不憫でならない。あと,フランス史でいうところのラ・ファイエットミラボーアイルランド史でいうところのコンスタンス・マーキェヴィッチのような,本来保守なのに自由主義にかぶれて「平民の味方」を気取って自分に酔う人間は,もはや蛇蝎のごとく忌み嫌っている。と,私は基本的にはこのような考えの人間なのである。

そういうわけでこの『RENT』だが,タイトルに書いた通り,「いや,家賃払えばいいんじゃないの」と開始数分で思った(それまでの数分は名曲『Seasons of love』の合唱なので,感激しながら見ていられるのである)。『RENT』をご覧になったみなさまなら,いやご覧になってなくてもおわかりの通り,これはこの作品のコンセプトの全否定に等しい。なので,その時点で見るのをやめてもよかったのだが,せっかく借りたし名作だし,ということで最後まで見たのだった。

そして案の定,最も感情移入したキャラクターは,もともとこの廃ビルの住人でありながらオーナーの娘と結婚したために今は逆の立場で家賃取立てに回っているベニーであり,次に感情移入したのはモーリーンの現在の恋人であるジョアンであった。特にベニー,可哀想でならない。映画を見る限り,彼は別に強硬な手段には出ていない。家具を取り払ったり,ドアに施錠したりはしたけれど,オーナーとして当然の措置である。他はいたって紳士的かつ友好的だと思うのに,不法占拠している側の人間から目の敵にされて本当に気の毒だ。ニューヨークは家賃が高い。常識でしょうよ。しかし夢追い人の集まりだから,当然,そんな家賃は払えない。だから家賃を払わずに住む,ってどういう理屈だ。論理飛躍にもほどがある。家賃を払って都会に住むか,家賃を払えないのなら「実家には帰りたくない」(マーク)*1からとか寝ぼけたことを言わずに実家に帰るか,あるいはニューヨークよりもっと安いところに住むか,そのどれかしかないのは火を見るよりも明らかでしょうよ。ベニーは「クリスマスに電気の供給を止めた」と言って住人たちから責められていたが,いや,廃ビルを不法占拠して住む住人のために電気を流しておいてくれただけでも大層親切だと思いますよ私は。そのベニーがついに強硬手段に出て,荷物を撤去しドアを施錠した時,住人ではないが住人たちと仲良くしているハーバード卒のエリート弁護士ジョアンが「家賃を払ったら?」と言うのだが,私は心底ほっとした(同時に,今更かいな,とも思った)。そして住人たちは,ジョアンに言われたら黙って家賃を払うための方策を練り始めるのである。つまり,本当に貧窮のために払えないわけでもなくて,ベニーの言う通りに家賃を払うのが嫌だっただけでしょう(←甘ったれ)。ああ,なんかもう,こういう「大人になりきれないボクたちの心の叫びを聞いて」的な世界,「権力への反抗こそがRock!」的な世界,ああ,もう,ぞわぞわする。ぞくぞくではない。嫌悪感である。何が「ワイドショーに魂を売りたくない」だ,この甘ったれ(マーク)。駆け出しの映像作家なら何でも撮って何でも売れ。誰かこの甘ったれ僕ちゃんに,日本の名だたる映画監督はみんなポルノ映画からキャリアをスタートさせるのだという話をしてやれ。

そして何よりも,私は愛犬家である。しかも日本犬を溺愛している。『RENT』をご覧になった方には,私が何を言いたいのかおわかりであろう。「隣の家のうるさい秋田犬のエヴィータを殺して1000ドル稼いだ」だあ?How dare you! その瞬間からドラァグクイーンのエンジェルは私の天敵となり(そしてこれも物語のかなり初めのほうだった),彼がエイズで命を落とす悲劇的なシーンすら私にとっては悲劇と思えなかった。1000ドルぽっちに目がくらんで秋田犬を虐殺したのだから因果応報だとすら思った。動物を虐待する人間はろくな死に方しませんよね。

以上が私の率直な『RENT』の感想である。おそらくこの作品では,社会的に弱者とされる人間たちが力を合わせ,また愛し合って,たくましく生きていく様が人々に感動を与えるのだろう。ファンの多いこの名作に,ここまで主旨とズレたいちゃもんをつけるのは非常に気が引けるので,この感想は書かないつもりでいた。しかし,裏を返せばここまでズレた感想も珍しいのではないかと思い,一応書いておく次第である。そしてやはり,私は根本的に保守的な人間だということを再確認したのは大きい。特に最近,自分はかなり左派寄りになってきたと思っていたので,そうではなかったと悟ったことは私自身にとっても驚きであった。自分の主義主張なんて,自分で一番よくわかっていると思いながら,実は一番よくわかっていないものだ。結局,私がラ・ファイエットやらに感じてきた嫌悪感は,同類嫌悪にも似たものだということなのだろうか。

一言だけ付け加えておくと,群像劇としてかなりよくできた作品だ,とは素直に思います。

*1:ただ,彼の実家がなぜ嫌なのか私には到底理解できなかった。クリスマスの朝に電話をかけてきてくれて,優しいご家族じゃないか。