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それを先に言えよ案件

昨日,『アナザースカイ』でずいぶん海外暮らしの溜飲を下げたことを書いたが,さっそく今日,おいおいそりゃないぜ,と思うことがあったので追記として書いておく。

詰めが甘いのかなんなのかわからないが,こちらでは「その情報,一番大事なことではないんですか」と思われるような情報が後出しにされることがたまに,いや結構ある。こういうのを私は勝手に「それを先に言えよ案件」と総称しているのだが,今日ひさびさに大きいのに当たったのである。

大学からは毎週「Web noticeboard」というメールが送られてきて,これはその名の示す通り「オンライン掲示板」である。ちょっとしたお知らせから住居関係の募集(これが一番大きい),学生同士の物の売り買い,*1アルバイトの募集,遺失物の情報などが載っていて,私は主に物の売り買いで利用している。*2一応バイトの募集にも目を通していて,今やっている日本語のレッスンはここで募集されていたものである。

それで,今日もこのメールを見ていたら,「歴史学チューター募集」と言うのがあった。興味を持ったので見てみると,「今年の新1年生が,歴史学の勉強にあたってエッセイにアドバイスをくれるような学生を募集しています」みたいな旨のことが,ごく短く書いてある。入学前から個人教師をつけてまで歴史学の勉強をがんばろうと考えるなんて,なんてやる気のある子なんだ(そしてなんて経済的に余裕のある子なんだ)と驚きつつ,書いてあったメールアドレスに,日本の大学でもこちらでもTAをやった経験のある博士課程の学生であると自己紹介し,もし私にご興味をお持ちいただけるようなら詳細を教えてくださいとメールを書き送ったのだった。するとすぐに返事が来たのだが,なんだか様子がおかしい。まず,「当該学生とそのご両親のサポートをしている者です」から始まる。えっ,代理人が返事をしてくるってどういうこと,と訝しく思いながら読むと,そこには初めて,当該学生が体の不自由な学生であり,そのフィジカル・ディスアビリティとは「誰かほかの人にノートテイキングを頼む必要がある性質のもの」だという情報が記されていた。

いや,ちょっと,それを先に言ってよ。

もちろん,最初の募集の文言には一言も「体が不自由な学生」などとは書かれていない。そして私はもちろん,TAの経験があると言っても,体が不自由な学生をサポートしたことなんてない。差別的な意図を持っての発言では誓ってない。ただ,当該学生がいわゆる「健常者」(この言葉はあまりよくないと思うが)かそうでないかというのは,こちらの準備のためにかなり必要な情報だと思うのだが。たとえば,会ってみて初めて相手が視覚障害をお持ちの方だったことがわかったなんて場合,それ相応の準備ができていないと大変困るのではないか。しかも,そこまで言うならきちんとどんな「ディスアビリティ」なのか明言すればよいものを,「ノートテイキングを頼む必要がある性質のもの」って,そんなヒントみたいな言い方をされても困る。最終決定まで秘匿されなければならないようなディスアビリティなのだろうか。「だけど彼はラブリーガイです」って,そんな情報こそどうでもいいから,クライアントがどういう状況にあり,私は何をすればよいのか,それを明確に言ってくれ,頼むから。この出来事,この国の馴れ合い体質を象徴的に表しているように思えてならない。結局「でもあいつはラブリーだから」とかで丸く収まってしまうし,収めようとされてしまうのである。問題はそこじゃないだろう,と思うことが多々ある。

そういうわけなので,私はそのような状況にある学生さんを教えたことはないということ,さらに私が博士課程の最終学年であり,また残り1年の間にも日本に数回帰る予定であることなどを説明し,「私が最適な人間なのか完全には自信がない」と正直に書いたうえで,判断は先方に委ねることにした。どちらであっても受け入れるつもりではいるのだが,やるとしても始まる前からこれだと先が思いやられる。ちなみに代理人はうちの大学のどこかの先生だったので,完全にこれは大人のやりとりである。そりゃ,たかだかバイトの募集ではあるだろうが,見たところ責任重大な役割のようだし,相手に誠実であるためというのもそうだが,むしろ余計な齟齬をきたさないためにも,最初からできるだけの情報は開示しておくべきだと思うのですが,こちらの人って,そういうのも別にどうでもいいんでしょうかね。つくづく不思議でならない。

*1:車も買える。今日来ていたやつでも2008年のフィアットが売りに出ていた。

*2:前はガルシア=マルケス『予告された殺人の記録』の原著をここで買ったが,マジックリアリズムは語学には不向きであったので,今は祖母宅にほかの荷物とともに眠っている。