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Shall we dance? 【実践編】

例年によって,日本人研究者がノーベル賞を受賞したという喜ばしいニュースが世間をにぎわしている。そこで私ははたと気づいた。研究者は同業同士での結婚も多い。ということは,もしや将来,まだ見ぬ私の夫がノーベル賞を受賞しないとも限らない*1もちろん愛する夫がノーベル賞受賞の栄誉に浴した暁には私もストックホルムへ同行して授賞式に出席する予定であるから,夫の顔に泥を塗らないよう,立派な国際社交の手法を身につけておかなければならない。そういうわけで,今日はうちの大学のダンスサークルが毎週金曜に開講している社交ダンス講座を受講してきた。授賞式の後には舞踏会がございますもの。

はい,理由の部分は全部嘘です(いや,もちろんそんなことがあったら素敵だと思いますよ)。しかし社交ダンス講座を受講してきたのは本当です。みなさまお気づきの通り,この前見た『Shall we ダンス?』にわかりやすく触発されたのである。私はこういう性格なので,子供のころから見たものをすぐ習いたがっては親にすげなく却下され,悔し涙を飲んできた。しかし私はいまや大人である。やりたいことができる!Woohoo!

こちらの大学におけるサークル活動がどのようなものかはこの前書いた通りなのだが,端的に言えばとても安上がりな習い事である。ダンスサークルに関しては毎日違うジャンルのダンスのレッスンを開講しており(ヒップホップ,アイリッシュダンス,バレエ,コンテンポラリー,それに社交ダンス),どれもプロの講師が教えてくれる上,ワンレッスン2.50~3.00ユーロである。ホームページにも「ダブリンで最も安くダンスレッスンを提供しております」とあった。しかも社交ダンスに限っては2時間も講習が受けられるのである。いくらグループレッスンとはいえ,ひとりのプロフェッショナルを,しかもフライデーナイトに2時間も拘束してこの値段。それはもはや搾取に等しいのではないか。

私はここで便宜的に「社交ダンス」と書いているが,正式には"Ballroom & Latin"で,『Shall we ダンス?』でも説明されていた通り,この2種の組み合わせが「社交ダンス」と呼ばれるものである。ということはどういうことか。ラテンをやらなければならないということである。上に書いた冗談は,あながちすべて冗談でもない。私は幼いころから夢見がちかつ少女趣味で,それこそ舞踏会とかドレスとかに憧れを持って育ったのである。むしろ29歳の今もそうである。なので私は,正直に言うと,"Ballroom"だけできればいい。しかし世の中そう甘くはない。今日のメニューはチャチャチャとワルツとジャイブの基礎中の基礎だったのだが,チャチャチャとジャイブは案の定苦戦を強いられた。しかもジャイブで初めに組んだ男はどうも経験者らしく,適宜アドリブを組み入れてくるほか,それにいちいち私が困惑するたびに"What's wrong with you?"とか言って煽ってくるなかなかの鬱陶しさであった。ジャイブ2ターン目で組んだスペイン人院生は,大変優しくて紳士的だったのだが,思いっきりステップを覚え間違えており,執拗に違うタイミングで私をターンさせようとしてくる。ターンをしないことによって私がさりげなく抗う他はなかった。

と,書いてみたらダンスそのものよりもパートナーに困惑していたような気がしないでもないのだが,下手なりに踊るのは楽しかった。それに,これも『Shall we ダンス?』で言われていたが,社交ダンスって結構暑い。着る服を考えなければ。そういうわけで,今週もなかなか刺激的なフライデーナイトであった。

ところで,最後にノーベル賞について真面目にお話ししようかとも思ったが,やはり今日はダンスで疲れ果てたので後日にする。ひとつだけ。医学生理学賞の大村先生がゼミを開講なさる時,「『大村のところに行きたい』と言われるようなゼミを心がけた」と書かれている記事を読んだ。この言葉は,来週からティーチングを控えた私の心の支えになった。「主宰する」ようなたいそうなものではなく,どちらかというと雇われゼミリーダーに過ぎないような立場だが,それでも毎週1時間学生の貴重な時間をもらうわけなのだから,やはり単なる私自身のよい教務経験になってはいけない。学生同士が話した時,私の受け持つ学生が別の学生から「私もマイのクラスがよかった」と羨まれるようなティーチングにしたいものだと思う。

*1:私自身は,ものすごく優れた著書を書いてそれが文学賞を取らない限り無理である。ちなみに歴史学での受賞は過去,1902年のテオドール・モムゼンのみ。