読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

最後のビザ更新とショパンコンクール

おそらくはこれが最後になるであろうビザ更新へ。ビザ更新は1年で一番面倒なイベントのひとつなのだが,思えばこれまでにもう3回(4回?)行ったかと思うと,なんだか感慨深いものがある。

f:id:Mephistopheles:20151015065529j:plain

回を重ねると準備もこなれてくる。暇つぶしができるものを用意しておくのは基礎中の基礎だが,電光掲示板から遠いところの椅子しか空いていなかった時のために眼鏡,風邪をひいた人が近くにいた時のためにマスク,さらにおやつにアーモンドまで用意した。しかし,この状態で持っていくのはさすがに自分が人間なのかリスなのかわからなくなりそうだったので,容器に移し替えた。

アイルランドのトップ・ユニヴァーシティに対する優遇なのか,それともただ単に留学生の絶対数が多いからなのかはわからないが,去年までトリニティ・カレッジだけ(だと思う)の留学生のために「ツアー」の便宜がはかられていた。通常であれば受付が終わっている17:30以降に団体で移民局(GNIB)に向かい,比較的短時間(とはいえ3時間半くらいはかかるのだが)で申請手続きを済ませてもらえるシステムである。私も去年まではこの恩恵にあずかっていた。しかし今年からシステムが変わり,トリニティだけでないすべての学校(だと思う)がこのシステムを採らなければならなくなり,さらに学生がこの「ツアー」に参加せず単独でGNIBに行くことはもはやできなくなってしまったとかで,いろいろな混乱が生じていた。ちなみに今日は行ってから最終的に外国人登録が完了するまで,実に7時間かかった。我々トリニティ・カレッジ生には何の恩恵でもないようだ。整理券をもらったら一旦外に出て,良い頃合いに戻ってくるのが普通なのだが,私は来週の授業の予習セットを持っていたのでそのままそこで予習をした。予習をしながら1時間ごとに何番まで番号が進んだか記録していたのだが,それによると1時間に35~40人ずつ進んでいる模様。遅っ。予習が終わった時点で残り1時間ほどあったので,一度学校に出て昼夜兼用のごはんを食べてきた。申請まで(つまり窓口で必要書類を出すまで)は整理番号で待つのだが,申請が終わってから発行されたものを受け取る時は名前と国籍をアナウンスされる。自分の番を待っていたらシリア人が呼ばれていたので,も,もしかしてこれは故郷で辛酸をお舐めになった方では……としんみりしたのも束の間,指定のブースに向かっていたのはどことなくポンコツな香りのするぼんぼんっぽい青年だったので,少しばかり安心した(だからといって,彼が辛酸を舐めていないとは限らないのだが)。

www.youtube.com

そして19時頃にやっと帰宅して,聴き逃したショパンコンクール3次予選を聴いている。それにしても,私はてっきり,例年通りビザ更新が3時間ほどで終わるものと楽観していたから,今日の後半はライブで聴けるはずだと思っていたのに本当に悔しい。飛ぶようにして帰ってきて(おかげで足が痛い),あわててライブをつけたら小林愛実さんが曲順最後のスケルツォ1番を弾き始めたところだった。

ピアノを弾く人間で知らないものはいないほど有名なこのコンクール,一般にはそこまで浸透していないらしいということを最近知って驚いた。そういえばいわゆる「クラオタ」と呼ばれるみなさまでさえ,あまり言及していないように見受けられる。日本人も毎回大勢出るのに!しかも最近はこちらのページでライブ配信が聴けるのだ。まことにテクノロジーの進化は天恵である。

コンテスタントたちはこれまで予備審査,第一次予選,第二次予選と選抜されてくるので,第三次ともなるともう,いずれ劣らぬピアニストばかりである。今ようやく3番目のチホ・ハンまで来たところだが,チョ・ソンジンとチホ・ハン,この韓国人のおにいちゃん2人はどちらもとてもいい。チョ・ソンジンはもはやなんというか王者の風格(ユンディ・リとかに似たものを感じる)で,これがコンクールであるということを忘れそうになるほど安心して楽しめる。ちょっとフィギュアスケートの羽生くんっぽい容貌である。そしてチホ・ハンは,外見は今時の韓国の若者なのだが(要するにチョ・ソンジンよりチャラついている),演奏から察するに,たぶんとても真面目な性格なのだろうと見える。みなさんお察しの通り,私はそういうギャップに弱いのだ。あと韓国勢はキム・スヨンも三次に残っているので,三次に3人残すなんて純粋に快挙である。*1それから前述の小林愛実さんも,彼女は日本人コンテスタントの中で最もファイナルに近いとの呼び声が高かったが,前評判にたがわず素晴らしい。日本人の演奏は良い意味でも悪い意味でもきっちり「音大生的」になりがちなのだが,小林さんの演奏はその域を軽々と越えている。二次予選の英雄ポロネーズは本当によかったと思う。

ショパンは私にとって敗北の象徴のようなもので,もはや苦手意識が先行してしまって舞台で弾くときにはいつも萎縮してしまう。なのでこのショパンコンクールも,こんなに面白く追いかけているのは実は今回が初めてかもしれない。もちろんそれは,私のショパンのレパートリーが少ないながらも徐々に増えてきていることもあるかもしれないが,いろいろ考えながら聴くととにかく勉強になる。よいところはもちろんそのまま参考になるし,解釈が異なる弾き方のコンテスタントがいたりすると,ということは私はこういう理想があるのだなと気づくこともできる。バラードはやはり物語として成立するような演奏でないといけないなとか,ショパンのワルツは踊るためのものではないとは言え,やはりそれでも踊れないといけないなとか,いろいろ考えさせられる。いかんせん長いので追うのもひと苦労だが,三次予選は明日と明後日も開催されるので楽しみである。そして18~20日は本選だが,もうその3日間は全部ライブで観覧することに決めた。そういうわけなので,あと1週間くらいの間,下手すりゃこの日記がショパンコンクールの追っかけ日記になることも大いにありえます。寛大なる読者のみなさまにはどうかご海容のほど,お願いいたします。

ちなみに,ピアノは好きだが聴いてもよくわからない,という方には,ぜひ目を閉じて聴いてみることをおすすめいたします。不思議なもので,目を開けているのと閉じているのとでは,まったく聴こえ方が違います。これは演奏者にも有効な方法で,はっきり出すべきメロディーがきちんと出ているかどうかとか,伴奏部分の音が大きすぎないかとか確認するときに目を閉じて弾いてみたりします。すぐに試せる方法なので,だまされたと思って,ぜひお試しあれ。

*1:日本人がノーベル賞を受賞したとき,産経を中心として「ノーベル賞を取れない韓国」みたいなレベルの低い記事がいくつも出ていたが,こういうところも含めて少しはよく考えた方がいいと思う。あと,そういう記事は本当に,恥以外の何者でもないから即刻やめていただきたい。