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ショパンコンクール2015・ファイナリスト10名

昨夜遅く,ショパンコンクール三次予選の結果が出た。昨日書いた通り,私も20人の三次予選出場者を10人に絞り込んでいたので,照合してみた。

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まず,本当にごめんなさい,うっかり小林愛実さんの「あいみ」の漢字を書き間違えてしまいました。

赤丸で囲ったのが「正答」。10人中8人が的中していた。もしかして審査員席に座る日も遠くないかもしれない。と悦に入ったところで,今日は明日から始まる本選に備え,本選出場者の演奏を言葉で表現してみようという試みである。誰もそんなの期待していないが,この日記は私の王国である。楽しい土曜日ですね。

まず,コンクールには「王者の風格」をお持ちの方が必ず1人はいるもので,こうした方は難なく勝ち上がり,本命視される。今回のショパンコンクールでは,なんといっても韓国のチョ・ソンジン(21)をおいては語れまい。彼の演奏は,もはやこれがコンクールであるということすら忘れそうになるほど安定し,卓越している。リサイタルでも聴いているような気分で聴き惚れてしまう。もちろんショパンを難なく弾きこなしているが,かといって「ショパン弾き」という感じでもないので,ぜひいつかリサイタルにきちんと足を運び,いろいろな作曲家の曲を聴いてみたいものだと思う。きっとどの作曲家でも万能に色分けのできるピアニストだろう。また,ロシアのディミトリ・シシキン(23)も,私にとってはこの部類に入る。シシキンには,チョ・ソンジンとはまた違った感じの風格がある。チョ・ソンジンが王者だとしたら,シシキンは孤高の「帝王」である。とにかく手が大きく,何を弾くにも無理がない印象がある。

続いて,これもどのコンクールでもそうだが,評価を真っ二つに分ける賛否両論の「個性派」がいる。今回のショパンコンクールで,ラトビアのゲオルギス・オソキンス(20)はその代表だろう。青柳いづみこFacebookに逐一載せているレポートなどを見ると,彼女はオソキンスのテクニックが不十分であり「コンクールをなめているとしか思えない」と激しく糾弾していた。確かにテクニック的な卓越はコンクールにおいて最低限クリアしておかなければならない条件である。でも,私にはそんなに気になりませんでしたよ。難しいところだが,コンクールにおけるテクニックの問題って,ミスをどう考えるかと同じで,とにかくそれらが「音楽を邪魔しない」ことが一番大事なのではないだろうか。その意味でオソキンスの演奏は,知らず知らず聴き入ってしまうカリスマ性が感じられた。*1あと,オソキンスのタイプとは少しずれるが,クロアチアのアリョーサ・ユリニッチ(26)もどちらかといえばこのカテゴリーかもしれない。彼の難しいところは演奏に結構ムラがあるところで,とてもいい演奏をしたり,あまりにミスが際立つ演奏があったりで,「こういうピアニスト」と一言で言うのが非常に難しい。私もユリニッチの演奏は,とてもいいと思ったり全然ダメだと思ったり忙しかった。彼はいわゆる天才肌なのかもしれない。

また本選には女性ピアニストが2人進出している。1人は日本の小林愛実(20),もう1人はアメリカのケイト・リウ(21)である。小林は以前にも書いた通り前評判も高く,一次予選の演奏も二次予選の演奏も,日本人出場者の中でもひときわ抜きんでた印象があった。日本人の演奏は毎度,良い意味でも悪い意味でも「音大生的」になりがちで,もちろんそれは全く悪いことではないのだが,優等生的な印象だけを残すということが多々ある。しかし小林の演奏はその「音大生の演奏」の域を軽々と超えており,さらに女性らしい演奏でありながらダイナミックでかつ力強く,とても印象に残る。三次予選のスケルツォ1番など素晴らしかった。日本人の本選出場は10年ぶりである。彼女は日本人ピアニストの歴史を変える存在であることは間違いない。ぜひ本選でも活躍を期待したい。ケイト・リウは演奏スタイルが割と不思議で,虚空に目を漂わせながら夢見るようにピアノを弾く。解釈も独特なところがあり,もしかしたら好き嫌いが分かれるピアニストかもしれない。

ポーランド人では唯一,シモン・ネーリング(20)が本選に出場している。失礼ながら彼を二次予選で見たときには80年代風の髪型であるという印象しかなかったのだが,三次予選のネーリングの演奏は本当に素晴らしかった。彼がポーランド人だからというわけではなく,三次予選出場者の中では最もショパンらしいショパンだったと思う。

本選には10代の出場者も2人出場する。アメリカのエリック・ルー(17)と,カナダのトニー・ヤン(16)である。申し訳ないことに私は「私の考える本選出場者」リストで彼らを抜かしていたが,彼らの演奏が気に入らなかったわけではない。彼らの演奏は,同じ10代なのにもかかわらず好対照をなしている。まずルーは,17歳にしてはものすごく円熟したピアノを弾く。しかしショパンコンクールの優勝者や入賞者には若々しい演奏のピアニストが多いし,私にはルーの演奏は年齢の割には少し(変な言い方だが)年寄りじみて感じられたのである。しかしその予想は裏切られた。ルーには心から謝りたい。私がルーを外したのはひとえに,若いんだからもっと元気に肉食ってなさい的な,30前後の女が後輩男子に言いがちな,いらぬお節介であった。対してヤンは,若々しく力強い。ただその演奏は私には少し荒削りに感じられるところもあり,リストから抜かしていたのだった。どちらも私の期待を裏切ってくれた10代の若者2人は,本選でどのような演奏を見せてくれるだろうか。

そして私の大本命はカナダのシャルル・リシャル・アムラン(26)。彼の演奏は小林愛実の演奏などにも通じて,男性らしいところもありながら繊細で,何より彼がピアノを弾くのが大好きだということが伝わってくる。本当に楽しそうにピアノを弾くので,リサイタルを聴いているような気分になるところはチョ・ソンジンと同じである。またネーリングの演奏が「ポーランド人としてのショパン」なら,アムランの演奏は「パリ社交界の寵児ショパン」を感じられる演奏だった。サロンでのミニコンサートのような,リクエストしたら応えてくれそうな,リラックスした雰囲気。アムランがフランス語圏(ケベック)の出身だからだろうか。しかし確かに洒脱な雰囲気があって,他の出場者より一歩「洗練されている」印象を持った。かといってそれを鼻にかけない演奏で,とても好感が持てる。顔立ちは浅利陽介っぽい。

以上が10名の本選出場者についての私の勝手な解説である。あくまで個人的な見解なので,読者のみなさまにおかれましてはどうか寛容に受け止めていただきたい。何度も書く通り,どの出場者もいずれ劣らぬ実力者である。

三次予選まではソロ曲だが,本選はピアノ協奏曲であり,2番を選んだアムラン以外は全員1番を選択している。これは聴くのが大変だろう(また数日間口ずさみ続けることは間違いない)が,こんなに個性豊かなピアニスト揃いなのだから,全然違った曲として楽しめるかもしれない。そしてなにより,ソロとコンチェルトとでは,ピアノの響かせ方が全然違う。コンチェルトを弾いたこともない私が言うのもおこがましいが,そのあたりもどのように変化させてくるのか。明日からの本選が本当に楽しみでならない。日本時間では深夜1時から始まるが,幸いにして私は在欧。こんなに在欧のアドヴァンテージを感じるのは,ワールドカップやオリンピックなどのスポーツ観戦の時とこの時くらいである。可能な限り,楽しくオンタイム鑑賞するつもりである。そして,こんなに楽しいのならやはりワルシャワに赴けばよかった。基本的に私はコンクールを聴くことがあまり好きではないのだが(自分がもどかしくなるから),今回こんなに楽しめているのは自分でも驚きである。ただ,ライブや録音を聴いているだけでもやはり相当疲れるので,生で聴いたらきっと,回復に1ヶ月くらいかかるだろう。

さて,この記事はショパンコンクールがさほど巷間で話題になっていないらしいことを知って驚いた私が,少しでも日本のみなさまにショパンコンクールに興味を持っていただきたいと奮起して書いた,余計なお世話以外の何者でもない代物だが,もし,本当にこの記事をご覧になってショパンコンクールに興味をお持ちいただいた方がいたときのために,こちらにライブストリーミングの聴けるページを貼りつけておきます。さらにその下に貼りつけたYoutubeのChopin Instituteのページでも,ライブストリーミングならびに録画が鑑賞できます。ぜひ,秋の夜長にショパンコンクールをお楽しみください。

chopincompetition2015.com

www.youtube.com

*1:ちなみにオソキンスはマイ椅子を持参していることでも有名です。