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ショパンコンクール2015・本選3日目(最終日)

セミナーに出たあと,それなりに疲れていたので少々迷いはしたが,やはりライブで観ることにして学校に留まった。この手段を思いついたのは本当によかった。セミナーのあとどう急いで帰っても間に合わないし,アムラン,シシキンあたりはアーカイブで見ることになるなあ,と落胆していたところに,平時子による「浪の下にも都の候ふぞ」ならぬ,「学校にもWi-fiの候ふぞ」という声がどこからともなく聴こえてきたのである。そうだ,それしかない。

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1. シャルル・リシャール・アムラン

私の大本命にして,本選唯一の協奏曲第2番。

ここまでは総じてモーツァルトが似合いそうな演奏であり,私の中でアムランのイメージとなっていたのだが,出だしで驚いた。モーツァルトっぽくない!それに,これまでショパンの世界観を知悉しているのはネーリングだと思っていたが,本選ではもしかして彼が一番理解していたのではないかと思った。ショパンの小品は別として,大曲に通底するのは,やはり哀切とでも表現されるべき,何層にも重なった深い深い悲しみとやるせなさであるように思うのだが,アムランのこの協奏曲は,まるでブラームスの,それも後期の作品を聴くような厚い世界観で訴えかけるものだった。1楽章の中間部や2楽章など,美しい旋律で魅せる場面であっても,ただ美しいというのではなく,悲しみの中にあって,もうぼやけかけた遠い昔の美しい思い出にふと想いを馳せて微笑むようでリリカルだった。3楽章では本領を発揮して,ああ,私の好きなアムランだ,とうれしくなった。

完成度も高く,準備不足になりがちな協奏曲において,この水準で完成させてきたのはチョ・ソンジン小林愛実とアムランくらいだったのではないかと思う。もしかして彼は,優しげな外見とは裏腹に,ものすごく野心家なのではないか。だとしたらますます目が離せない。

2. ディミトリ・シシキン

帝王シシキン,いつもながらすばらしいのだが,今回の演奏はどことなく無難にまとめられていたような気がして少し残念に感じた。もしかして少し不安があったのだろうか,あれがシシキンの音だとしたらだが,出てくる直前まで3楽章のコーダを確認していたのが聴こえていたようだし。少しのミスタッチでとても悔しそうな表情を浮かべていたのが気がかりだった。割と独特なテンポの揺らし方をしていたので,彼の中にはきっと確固たるイメージがあったのだろう。それを邪魔するいかなるものも許せないというような表情に見えた。

シシキンの描こうとしていたものは私にはつかめそうでつかめなかったのだが,それで逆に惹きつけられたような気もする。彼が何を言わんとしていたのか,彼が見ているものを見るためにもっと聴きたくなる。短絡的ではあるが,ロシア人だし,彼の長い指で奏でられるラフマニノフスクリャービンを聴いてみたい。彼もまた,絶対にリサイタルに足を運びたいピアニストである。

3. トニー・ヤン

今回の本選出場者最年少にして,エリック・ルーとは対照的なピアノを弾くヤン。入りはやはり少し荒削りに感じたが,美しい情感に満ちていた。聴いていて涙が出そうになったのは彼が初めてかもしれない。16歳でここまで表現できるのは本当にすばらしいことだと思うし,アゴーギクのヴァリエーションも豊かで,演奏が単調にならないのも特筆すべきポイントである。

3楽章の始まり方など,1楽章と2楽章に比べると少し重いか?とも思ったが,とにかくキラキラ弾きがちな3楽章をころころと転がるような音で弾いていたのは意外だった。女性ピアニストのような,この本選では小林愛実が弾いたような,丸くて優しい音の粒であった。

さて,ただいまGMTにして22時である。まだ順位はわかっていないが,おそらくもうすぐだろう。さあ,誰が優勝するだろうか。チョ・ソンジンかアムランかなと思っていたのだが,ネーリングも二次予選から三次予選,そして本選へと進むたびに音楽性を上げ,本選の協奏曲は間違いなく一番忘れがたいものだった。そして2位以下もどのようになるだろうか。さらにベスト・ソナタ賞やベスト・コンチェルト賞など,部門賞は誰が取るだろうか。わくわくしてさっきから公式HPの更新を繰り返している。

追記:結果発表(GMT0:00,ポーランド時間1:00)

チョ・ソンジン1位,アムラン2位は順当だろう。しかしネーリングと小林さんはもう少し高く評価されてもよかった気がする。ケイト・リウとエリック・ルーが3位4位につけているあたり,今回のコンクールは詩情を高く評価したのだなということがわかる。