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Youは何しにアイルランドへ?

今日もアイルランド語会話会に参加したのだが,会場の本屋の前に若い女の子2人のTVクルーが来ていた。しばらくすると彼女らは本屋に入ってきて,会話会の人たちにインタビューしたいから何人か撮らせてくれという。すぐにインタビュアーは私の姿をみとめ,"An bhfuil Gaeilge agat?"(アイルランド語話せるの?)と聞いてきた。私はもう学校に行きたかったし,だいたい私のアイルランド語は下手すぎるからインタビューはちょっと,と固辞していたのだが,結局どうしてもと頼まれて断りきれずに出ることになった。Oireachtas*1が近々開催されるのだが,その開催はアイルランド文化の復興に大きな影響を与えると思いますか?という質問がひとつ。それに加え,あなたはOireachtasに行きますか?という質問がひとつ,その2つを聞きたいだけだという。しかし特に最初の質問は理由を加えて答えなければならないし,少し複雑な文章になるので,ブロークンアイリッシュでグダグダになるのはよくないと,急いでスクリプトを作った。しかしテレビの前に座ると,インタビュアーはそれを取り上げようとする。要するに自然に見せたいので,台本など読んでいたら都合が悪いのである。だったらいきなり私に言うなよ

急に声をかけてくるのもさることながら,その質問の内容も内容である。そもそも,Oireachtasが開催されるのなど今日になって初めて知った。そしてそれがアイルランド文化の復興に大きな影響を与えるかどうかと聞かれれば,正直な答えは「全くそう思わない」である。しかしそんなこと言えるわけもないので,「そうだといいですね」と答えることにした。さらに次の質問「あなたは行きますか」には「わからないけど,たぶん」と答えることにした。行かないなどと言えるわけもない。するとカメラマンの女の子から「『わからないけど,行きたい』って言ってもらっていいですか?」と注文が入る。出たよ捏造。もうこの時点で予定の出発時刻を30分ほど過ぎていたし,早く切り上げたいのでさっさとそうお答えして差し上げた。「すぐ終わるから」などと言いつつ,結局4回も5回も撮り直しをし,インタビューは終わった。まったく,とんだタイムロスだった。

外国人としてアイルランド語を学ぶのが嫌になるのはこういう時である。特に私はアジア人で目立つので,すぐにこういう場面に引っ張り出される。現に今まで,2度のラジオ出演を含め,様々な機会に取り上げられてきた。もちろん,それが誠実なインタビューであれば私は喜んで引き受ける。ラジオ出演はどちらも,私が外国人としてなぜアイルランド語を学ぶにいたったかということについて聞かれるものだったので,それは普通にアイルランド史をやっているからだと答えた。しかし今回のようなのは,明らかに捏造である。いきなり言われてきちんと答えられるような語学力もない私をいきなり引っ張り出し,別に興味もないOireachtasについて,言うべき答えを教えられてそのまま答えさせられる。要するに彼らが欲しいのはただ,業界用語でいうところの「画」なのである。私がただそこにいるということが多くのメッセージ性を持つのだ。つまり,見てください,外国人が私たちの文化に興味を持って学んでいます!という趣旨の。冗談じゃないわと思う。私は確かにアイルランド語を学んでいるし,確かにその経験は面白いが,しかし身もふたもない言い方をすれば,アイルランド語学習の目的は「仕事で使うため」であって,それ以上でも以下でもない。別に「美しく伝統のあるアイルランドの文化」に興味を持ってのことではない。そんな日本人が必要なのなら,いくらでも紹介するから彼らに声をかけてくれ(ただし彼らはアイルランド語できないけど)。究極的には私にとって,アイルランドは「面白いフィールド」である。これも,それ以上でも以下でもない。ずいぶん冷たい態度と思われるかもしれないが,それでいいんじゃないかと思っている。4年も住んで愛憎相半ばしているが,愛着があるのは確かなんだし。

しかし,とにかくこんな風に「自国がいかにすごいか」を「客観的な目線から」述べさせるために外国人を使うのは本当にやめた方がいいと思う。私もそうだが,いいように使われた外国人は自分が「いいように使われた」ことを重々理解しているし,それは悪い印象を残しこそすれ,良い方には決して転ばない。前にも書いた気がするが,ここ数年,「日本の素晴らしさに外国人観光客がびっくり!」みたいな気色悪い特集がテレビで多くなされていて,しかもそれが増えているのに気づいたときにはもう暗澹たる気分になった。私が見たのは関空での「おもてなし」の精神がいかに徹底しており,それに外国人がいかに感銘を受けているかといういかにもなものであり,しかもその後ご丁寧にも「一方,中国の○○空港では……」という比較映像まで流れていた。「荷物受け取りの時,少しでもベルトコンベアーから取り出しやすいようにとスーツケースの取っ手がすべてこちらに向けられているのに気づきましたか?それについてどう思いますか?」みたいなバカみたいな質問をされて,「本当に素晴らしいよ」「うちの国では考えられないね」などと同じくバカみたいな答えを返さなければならない観光客たちに同情を禁じ得なかった。彼らもまた,私と同じことを考えていたのではないか。つまり,私に何を言わせたいの?と。

今日はこの不毛なタイムロスのために,研究の時間が削られてしまったのが本当に腹立たしい 。少しでも研究の時間を取り戻すため,すべての予定をキャンセルしようかとも考えたのだが,経験則からしてこういう時に予定をキャンセルするとますます腹立たしいのである。あんなことに関わったために研究もできず,楽しい予定もキャンセルしなければならなかったと。それは精神的によろしくないので,やはり予定はそのまま決行した。ライフルと社交ダンス。ライフルはだんだん勘を取り戻してきたし,社交ダンスは楽しかった。割とストレスが解消されて今に至っている。

*1:「ウラクタス」と読む。1897年から開催されている,アイルランド文化のフェスティバルのようなもの。もともとの意味は「集まり」で,アイルランド上院もこの名前で呼ばれています。