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現代史セミナー改善女子会

今日学校に着いたら,アレックスが「Coffee thing行く?」と聞いてきた。はて,「コーヒーのやつ」とはなんだろうか,と思い出せなかったのでアレックスに聞いてみると,「ほら,アン*1からメール来たやつよ」という。ああ,あれね。「現代史セミナーで女性参加者の発言が男性参加者にくらべて少ないように思われるが,改善するにはどうしたらいいか話し合いたいので,都合がいい人は金曜の15時にタワレコのカフェに集合してね」という,女子院生向けに届いていたやつね。私にもこれといって予定はなかったし,なによりこんな議題が出るなんて興味深かったので,すっかり忘れていたことは棚上げにして参加することにした。

行ってみると,この議題を提示したのはそもそもドーラン先生ではなく,今年から博士に入ったカナダ人の院生キャロラインであったようだった。キャロライン曰く,今のセミナーは男性ばかりが我先にと発言していて,女性にとって少し居心地の悪いものであるように思えるから,どうすればもっとinclusiveなものに変えられるか考えたい,とのことであった。

まず,私はこの問題について,ジェンダー差に起因するものとはまったく考えていなかった(し,考えていない)。女性参加者の発言が少ないように見えるのは単に興味関心の問題であろう。私も含め,多くの女性が女性史やジェンダー史を研究しているが,それに直接的あるいは間接的に関わるテーマでの発表がそれほど多いわけではないため,結果としてただ聞いているだけになる,というのがまあ順当な理由だろうと思う。それに,このセミナーは割とフォーマルなものであるため,不用意に発言するのは気が引けるため慎重になってしまうという理由もあるだろう。さらに言えば,セミナーや学会で何をするかなんて人それぞれなので,発言しないから悪いというような単純なものでもない。確かに発言すれば,より議論にコミットしている感があって楽しいが,発言しなかったとしても耳学問で勉強になる。話し合いの中でも話題に上がったが,院生だけで開いている近代史セミナーは,そこに院生しかいないためリラックスした雰囲気なので,割と積極的にみんな質問している。

なので,この議題の前提に関してそもそも懐疑的だった私は,これ話し合ってなにか解決されるのだろうかと疑問に思っていたのだが,1時間半にもわたっていろいろなことが話し合われた結果(私も2度ほどアホみたいな英語で発言した),セミナーの他にもコーヒーとか読書会とかカジュアルな集まりを開くようにして,まずは懇親することを目標にしましょうという結論が出た。これは確かに名案だと思うし,コーヒーやら読書会にはぜひ私も参加したい。今回のタワレコミーティング自体も,話し合いという名目ではあったものの,いい「女子会」の機会で楽しかった。

それにしても興味深く思ったのは,彼我の認識の差みたいなものである。そもそも私が日本で在籍していた東大の西洋史学研究室はランケの弟子リースが開いたのもあって,演習はドイツの大学の「ゼミナール」の伝統を非常に色濃く残しており,教授をトップとした厳格なヒエラルキーは確かにある。かといって演習で発言がなされないというわけでもないが,"inclusive"な感じではない。だから私は「静か」なセミナーに特に疑問を抱いたことはなかった。しかしキャロラインは北米の出身だから,とにかく議論とはみんなが参加して白熱すべきであり,それがなされないのは問題があるからだという考えがあるのかもしれない。フランスのことは知らないが,イギリスやアイルランドの大学はヒエラルキーに支配されている感じはしないにせよ,かといってカジュアルでフランクなわけでもない。いい具合に,ドイツ式とアメリカ式の中間くらいなのかなと思っている。私にとっては,まあまあ居心地がいい。

そしてさらに実感したのは,私自身の能天気さである。日本にいたときからそうなのだが,私はそもそも発言を「控え」たことがあまりない。セミナーや講演に出席したときは,何かしら発言しようと思いながらメモを取って聞いている。私は件の現代史セミナーでも,留学1年目から興味があったら発言していた。だって,上に書いた通り,その方が集中して話を聞けるし,なにより楽しいから。なのではっきり言って,私はこのセミナーが「inclusiveでない」などと感じたことがあまりなかったし,「女性だから発言しづらいわ」なんて感じたことも一切なかったのである。これは別に私が有能でデキる女であるということではさらさらなくて,ただ単に私が向こう見ずな性格であるというだけなのだと思うが。考えてみたら,昔から「こんなこと言ったらバカだと思われるかも」みたいな心配をしたことが一度もない。むしろ,バカと思われるならそれで結構くらいに思っている節がある。慎み深い日本人院生の間では私はキワモノであったが,こちらでもどちらかというとキワモノに近いらしい。大変だ。

*1:アン・ドーラン先生という現代史の先生