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TA冥利

私がTAとして受け持ったクラスに多くの短期留学生がいたことはすでに書いた通りだが,彼らには期末エッセイの他,もう1つエッセイが課せられている。なんでも試験を受けない代わりの措置だとのことだが,それにしても1学期で3通のエッセイなんて,本当にご苦労なことである。

今朝メールボックスを開いてみたら,コールというアメリカ人の男の子からメールが来ていた。コールはエール大学からの短期留学生で(なんと畏れ多い),いつもとてもいいエッセイを書く上,授業でもよく発言する全方位タイプの優等生である。彼は中間エッセイで,男子学生にしては珍しく女性史(確か飢饉と女性の関係だったような気がする)を扱っていた。彼のメールは,私が中間エッセイに書いたコメントを踏まえて,最後のエッセイでは「アイルランドのホーム・ルール運動に対する女性の反応に階級ごとの違いはあるか」ということを考察してみたいのだが,トピックはこれで大丈夫だろうか,と尋ねるものだった。彼はメールの最後にこうも書いてくれていた。

Your comments on my first paper were super helpful.

 コール,君はなんてTA冥利に尽きることを言ってくれるんだ……!

コールからのメールの中にTA冥利ポイントは2つある。まずはやはり,引用した通り「コメントが超役に立った*1」と言ってくれていることである。先日も書いた通り,私は1つ1つ大量のコメントを付して返していた。*2そのコメントが役に立ったなら,私の努力が自己満足ではなかったということなので,素直にとてもうれしい。そしてなにより,コールが私のコメントからさらに関心を深めてくれたということである。確かコールは,飢饉について女性の記述にどういう特徴が見られるかというようなことに関する中間エッセイを書いていたと思うのだが,それに対して私は,「でもこういう記述を残せるのって,ある一定以上の階級の女性だけだよね」という旨のコメントをしたように記憶している。このコメントは私の女性史家としての問題関心に直結するものであり,*3私自身にとって特に難しいコメントではなかった。しかしコールにとって,これが興味を広げるきっかけになったらしい。こんなにうれしいことがあるだろうか。

もしかしたらこれは,今後教職に就くとしても,そうそう味わえるようなものではない喜びかもしれない。なまじこちらで教職デビューなどしてしまったがために,日本の大学や高校で教えるとなると,もしかしたら学生の温度差に戸惑うことがあるかもしれない。日本の学生の中にはただ座ってつまらなさそうに授業を聞いている(もしくはあからさまに寝る)だけという子も多いから,慣れないうちはそれで落ち込んだりすることもあるかもしれない。教壇から見渡していると,なぜかつまらなさそうな反応の方が目につくものなのだ。

しかしそうだとしても,こちらの大学でがんばって,学生からこんなにうれしい反応をもらえたことがあるという思い出は,何にも増して私を励ましてくれるだろうなと思ったし,それを励みに日本でもがんばろうと思った。コールには心から感謝しながら,思いつく限りの情報を込めてメールの返事をした。エールに帰ってもがんばって。君ならきっと大丈夫だ。

さて,こんなにいつもいつもTAの話ばかり書いているのは,単にそれがその日で一番印象深いことだったということでもありますし,読者のみなさま方にぜひ自慢したいことだからでもあるのですが,一番の理由は,来年5月に発売される東大西洋史学研究室の雑誌『クリオ』に留学体験記を書かせていただくことになったので,その備忘録とするためです。

www.l.u-tokyo.ac.jp

『クリオ』の留学体験記は,私自身も学部生の頃からその号で一番楽しみにし,また励みにしていた特集です。ここ数年は編集の都合で掲載されていなかったようなのですが,来年はまた掲載されることになったらしく,光栄にも私に声をかけていただきました。おそらく,私が書きたい書きたいと言っていたのを知っていた後輩が口利きしてくれたのだと思いますが,もちろん二つ返事でお受けしました。

とはいえ,留学体験記はこれまで錚々たる先輩方が執筆なさってきたもので,私などがそこに名を連ねることに一抹の不安もないわけではないのですが,私のような味噌っかすでも留学できたし,なによりとても楽しかったよ!ということを,後輩ならびに留学をお考えのみなさまにお伝えできればと思っております。先述しました通り発売は来年5月21~22日,例年通りなら西洋史学会の会場(次回は慶應義塾大学三田キャンパスです)にブースが出ると思います。また上記のHPから通信販売も承っております。もちろん私めの留学体験記の他にも,その前年で最も優れた卒業論文2~3編をベースにした論文,教授の特集インタビュー,特別寄稿や書評など,盛りだくさんの内容となっております。一部1000円ですので,ご興味おありの方はぜひ,私のためにも,また編集を担当する後輩のためにも,お買い上げいただけましたら幸いに存じます。以上,力いっぱい宣伝いたしました。ご心配なく,また近づいてきたらどんどん宣伝いたします。

今気づいたが,『クリオ』が発売になる5月21日は,私が2012年にアイルランドに渡った日。なんだかとてもうれしい。

*1:コールの文体にできるだけ忠実に訳してみた。

*2:

mephistopheles.hatenablog.com

*3:これに関して,今までに何度か書いているのでよろしければ下記のリンクをご覧ください:

mephistopheles.hatenablog.com

さらにこちら:

E1588 - 労働者階級女性の図書館利用:ハダスフィールドの事例から | カレントアウェアネス・ポータル